2.12.2010

「ウォッチメン」原作コミック解説(23) CHAPTER 8 [P245〜P247]

<P245>
ホリス・メイソンとサリー・ジュピターの一連のシーンは、小道具や暮らしぶりなど、あらゆる要素が対照的。コメディアンの死によって、最後のミニッツメンになってしまった二人だが、どちらもその話題を持ち出さないところに、互いの複雑な心情が見て取れる。

PANEL3-4
ニューヨークのメイソンは6時のニュースを観ているが、サリーのいるカリフォルニアではまだ3時なので、彼女は昼メロを観ている。ニュースの画面に映っているのは、アフガニスタンの地図。北方からソ連軍が侵攻した事を示している(P222 PANEL5参照)。

PANEL9
ハロウィン:ケルト人の収穫祭に由来する万聖節の前夜祭(10月31日の夜)。幽霊や魔女が姿を現すとされており、子供達が幽霊の仮装をして「お菓子か悪戯か?」と言って、家々を回りお菓子をねだる習慣がある。気の早い子供達がハロウィンの準備をしているが、この日は10月26日(土)で、本番はまだ1週間近く先。

<P246>
PANEL5

ニクソノミクス:本作発表時の大統領ロナルド・レーガンが施策した経済政策「レーガノミクス」にちなんだ造語。減税、規制緩和、福祉削減&軍備増強などで、不況とインフレの改善に臨んだレーガノミクスは、財政赤字と引き換えに景気回復を果たしたが、ニクソンの経済政策は目立った効果は上げていない模様。ところで、この美容師とホリスの愛犬の対比はあまりに……。

PANEL6
鏡に映ったメイソンの表情に注目。一連の会話シーンで初めて表情が見えたシーンである。サリーは屈託なく微笑んでいるのだろうか。ところで、電話のダイアルの穴が8つしかないが、PANEL2では9つなので、単なる描き損ないで特に意味はないのだろう。実際は10個。

<P247>
PANEL2

77年の亡霊:有名なスローガン「76年の精神(スピリット)」にかけた言葉。"スピリット"には、"精神、亡霊"の意味があるが、「76年の精神」が1776年のアメリカ独立の"精神"を指しているのに対し、ノヴァ・エクスプレスのいう「77年の亡霊」は、1977年のキーン条例で消えたはずのヒーロー達が亡霊のように蘇ったことを指している。先週号でDR.マンハッタンの癌疑惑を暴き、今週号でも反ヒーローの特集を組むとは、反ヒーロー運動の急先鋒を自負するノヴァらしいが、結局はヴェイトの世論操作の一環でしかない。

PANEL3
ユートピア劇場で上演されているのは、1951年公開のSF映画の古典『地球の静止する日』。核戦争の悲劇を警告すべく来訪した宇宙人クラートゥは、地球人を説得するため、すべての機械を一時的に止めてしまうが……。東西の冷戦対立への危惧を示した作品であり、その精神は本作に通じるものがある。

「地球の静止する日」


PANEL7
P192 PANEL7と同じシーン。PANEL4の店主のセリフにもあるように、このページは10月27日(日)の出来事を描いており、P246から1日が過ぎている事になる。