「ウォッチメン」予告編(英語版)のバックで流されていた曲をご紹介します。
予告編第一弾の楽曲
・The Smashing Pumpkins「The Beginning Is the End Is the Beginning」
オリジナルは「バットマン&ロビン」の挿入歌「End Is the Beginning Is the End」です。この曲はそのリミックス版で、「バットマン&ロビン」サントラCDに収録されています。
予告編第2弾の楽曲
切り替わっていく曲を順番に書くと;
(1)Philip Glass 「Prophecies」
(2)Philip Glass 「Pruit Igoe」
この2曲は「ウォッチメン」サントラCDに収録されています。オリジナルは映画「Koyaanisqatsi」サントラより。
このほか、「ウォッチメン」の予告編やCMでは、全体的にフィリップ・グラスの曲が使用されているようです。→フィリップ・グラスについて(ソニーミュージックジャパン)
(3)Muse「Take A Bow」
人気バンドのヒット・アルバム「Black Holes and Revelations」より。
3.31.2009
「ウォッチメン」 サウンドトラック
「ウォッチメン」サウンドトラック 国内盤
○「ウォッチメン」実写版映画のサウンドトラック
○マイ・ケミカル・ロマンスによるボブ・ディランの「廃墟の街」カヴァーを収録!
1. 廃墟の街/マイ・ケミカル・ロマンス
2. アンフォゲッタブル/ナット・キング・コール
3. 時代は変わる/ボブ・ディラン
4. サウンド・オブ・サイレンス/サイモン&ガーファンクル
5. ミー・アンド・ボビー・マギー/ジャニス・ジョプリン
6. ブギー・マン/KC&ザ・サンシャイン・バンド
7. ユアー・マイ・スリル/ビリー・ホリデイ
8. プルート・イゴエ&プロフェシーズ/フィリップ・グラス
9. ハレルヤ/レナード・コーエン
10. 見張り塔からずっと/ジミ・ヘンドリックス
11. ライド・オブ・バルキューレズ/ブダペスト・シンフォニー・オーケストラ
12. パイレート・ジェニー/ニーナ・シモン
○試聴できるサイトはこちら(ワーナーミュージック)。
Watchmen [Soundtrack] US盤
上記と同内容。輸入版なので安価です
Watchmen [Original Motion Picture Score] [Soundtrack] US盤
こちらはタイラー・ベイツによるオリジナル・スコアを収録したサウンドトラック。挿入歌は入っていません。
My Chemical Romance 「Desolation Row」
映画「ウォッチメン」の挿入歌、マイ・ケミカル・ロマンスによるボブ・ディランのカバー「廃墟の街」ビデオ。ビデオ監督はザック・スナイダー。
主題歌を歌っているマイ・ケミカル・ロマンスのインタビュー記事はこちら(Barks.jp)。ティーンの頃からウォッチメンのファンだったそうです。
ラベル:
ウォッチメン サントラ
3.29.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(9) CHAPTER 3 [P103〜P105]
<P103>
フラフープ:腰で回して遊ぶ輪状の遊具。1958年にアメリカで大流行した。
ジルバ:スイングダンスの一種。1930年代後半にアメリカで流行し、第二次大戦を通して世界に広まった。
マッカーシー:ジョセフ・マッカーシー上院議員(1908〜1957)。共和党所属。狂信的なまでの反共主義者で、1950年代前半のアメリカに、集団ヒステリーともいうべき反共主義"マッカーシズム"を引き起こした。1950年、国務省内に205人もの共産主義者がいると告発。戦後間もなくから高まっていた反共感情に火をつけ、一躍、時代の寵児となった。"赤狩り"と呼ばれた告発の矛先は、ついには所属する共和党政権、合衆国陸軍にまで及んだが、偽証、密告など手段を問わない強引な姿勢に批判が高まり、54年、上院に不名誉をもたらしたとして事実上の不信任決議を受ける結果となった。
こうして急速に影響力を失った彼は、57年に急性肝炎で死去したが、一般にまで広がった反共感情は、その後も長くアメリカを支配することになる。ちなみに、赤狩りはハリウッド映画のような娯楽分野にも及んでおり、先に述べたコミックス・コードの制定もその影響下にあったと言えよう。(※解説記事(1)を参照)
HUAC/下院非米活動委員会:1938年に外国のスパイ活動を監視する意味で設立された委員会で、戦後は共産主義者の告発に力を注いだ。赤狩りの総本山であり、1947年、ハリウッドの映画人10人を、自分は共産主義者ではないとの証言を拒んだとして、議会侮辱罪で投獄した一件は、特に社会の注目を集めた。なかば中世の魔女裁判のごとく一方的に容疑者を吊るし上げ、社会的に抹殺するそのやり方には批判も多かったが、委員会が廃止されたのは1975年のことだった。
ちなみに、HUACの横暴はDCコミックスの歴史にも組み込まれている。1940年に誕生した世界初のスーパーヒーローチ−ム、ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカは、人気の低下から1951年に誌上から姿を消したが、1962年に復活した際、彼らの10年に及ぶ不在は、単なる引退としか説明されなかった。しかし、1979年に発表されたあるストーリーで、彼らは1951年にHUACに正体を明かすように強制されたため、やむなく引退の道を選んだのだと説明が加えられたのである。ミニッツメンとHUACの一件が、このエピソードを基にしていることは言うまでもない。
世界最古のヒーローチーム、ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ
左翼の学生と〜:世界的な経済恐慌にあった1930年代、共産主義は理想主義の学生の間で人気があった。
<P104>
東ドイツ:正式名称は「ドイツ民主共和国」。1949年、敗戦国ドイツのソビエト占領地域に建国された社会主義国家。アメリカ、イギリス、フランス占領区域に建国されたドイツ連邦共和国(西ドイツ)と長く対立関係にあったが、1990年に西ドイツに吸収され消滅した。
<P105>
ビート族:1950年代に登場した、因習的な行動や服装を否定する若者たちの総称。
エルヴィス・プレスリー:(1935〜1977) ロックンロールの帝王。ビートルズなど、あらゆるアーティストに大きな影響を与え、その名は今なお輝いているが、デビュー当時は、そのセクシーな仕種が卑猥だとして非難を受けることも少なくなかった。
ミニスカート:1960年代初頭、イギリスから発生したファッション。足を剥き出しにしたそのスタイルは、古い世代の顔をしかめさせた。
ビートルズ:(活動期間1962〜1970) イギリスが生んだ今世紀最高のスーパーグループ。とはいえ、デビュー当時は、その奇抜なファッションを揶揄されることも多かった。
フラフープ:腰で回して遊ぶ輪状の遊具。1958年にアメリカで大流行した。
ジルバ:スイングダンスの一種。1930年代後半にアメリカで流行し、第二次大戦を通して世界に広まった。
マッカーシー:ジョセフ・マッカーシー上院議員(1908〜1957)。共和党所属。狂信的なまでの反共主義者で、1950年代前半のアメリカに、集団ヒステリーともいうべき反共主義"マッカーシズム"を引き起こした。1950年、国務省内に205人もの共産主義者がいると告発。戦後間もなくから高まっていた反共感情に火をつけ、一躍、時代の寵児となった。"赤狩り"と呼ばれた告発の矛先は、ついには所属する共和党政権、合衆国陸軍にまで及んだが、偽証、密告など手段を問わない強引な姿勢に批判が高まり、54年、上院に不名誉をもたらしたとして事実上の不信任決議を受ける結果となった。
こうして急速に影響力を失った彼は、57年に急性肝炎で死去したが、一般にまで広がった反共感情は、その後も長くアメリカを支配することになる。ちなみに、赤狩りはハリウッド映画のような娯楽分野にも及んでおり、先に述べたコミックス・コードの制定もその影響下にあったと言えよう。(※解説記事(1)を参照)
HUAC/下院非米活動委員会:1938年に外国のスパイ活動を監視する意味で設立された委員会で、戦後は共産主義者の告発に力を注いだ。赤狩りの総本山であり、1947年、ハリウッドの映画人10人を、自分は共産主義者ではないとの証言を拒んだとして、議会侮辱罪で投獄した一件は、特に社会の注目を集めた。なかば中世の魔女裁判のごとく一方的に容疑者を吊るし上げ、社会的に抹殺するそのやり方には批判も多かったが、委員会が廃止されたのは1975年のことだった。
ちなみに、HUACの横暴はDCコミックスの歴史にも組み込まれている。1940年に誕生した世界初のスーパーヒーローチ−ム、ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカは、人気の低下から1951年に誌上から姿を消したが、1962年に復活した際、彼らの10年に及ぶ不在は、単なる引退としか説明されなかった。しかし、1979年に発表されたあるストーリーで、彼らは1951年にHUACに正体を明かすように強制されたため、やむなく引退の道を選んだのだと説明が加えられたのである。ミニッツメンとHUACの一件が、このエピソードを基にしていることは言うまでもない。
左翼の学生と〜:世界的な経済恐慌にあった1930年代、共産主義は理想主義の学生の間で人気があった。
<P104>
東ドイツ:正式名称は「ドイツ民主共和国」。1949年、敗戦国ドイツのソビエト占領地域に建国された社会主義国家。アメリカ、イギリス、フランス占領区域に建国されたドイツ連邦共和国(西ドイツ)と長く対立関係にあったが、1990年に西ドイツに吸収され消滅した。
<P105>
ビート族:1950年代に登場した、因習的な行動や服装を否定する若者たちの総称。
エルヴィス・プレスリー:(1935〜1977) ロックンロールの帝王。ビートルズなど、あらゆるアーティストに大きな影響を与え、その名は今なお輝いているが、デビュー当時は、そのセクシーな仕種が卑猥だとして非難を受けることも少なくなかった。
ミニスカート:1960年代初頭、イギリスから発生したファッション。足を剥き出しにしたそのスタイルは、古い世代の顔をしかめさせた。
ビートルズ:(活動期間1962〜1970) イギリスが生んだ今世紀最高のスーパーグループ。とはいえ、デビュー当時は、その奇抜なファッションを揶揄されることも多かった。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.28.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(8) CHAPTER 3 [P90〜P100]
<P90>
PANEL2
アドレナリン:興奮、怒り、恐怖などを感じた時に分泌される副腎皮質刺激ホルモン。
PANEL6
画面奥の時計が7時40分あたりを指している。ようやく時計が時計としての役割を果たし始めたようだ。
<P91>
PANEL2
ニュー・フロンティアズマンの広告の"正しい(RIGHT)"に、翼を意味する"WING"が落書きされ、"RIGHT WING"に(右翼、RIGHTには右の意味もある)なってしまっている。街に落書きをするような若者が同紙をどう思っているか、また、同紙がどのような政治傾向を持っているかが伺える。
なお広告の文句は、1964年の大統領選挙に出馬した共和党候補バリー・ゴールドウォーターのスローガン"IN YOUR HEART, YOU KNOW HE MIGHT(あなたの心に彼は正しい)"をもじったもの。厳しい予備選を勝ち抜いたゴールドウォーターだったが、民主党のジョンソン陣営によって、右翼、人種差別主義者とのレッテルを貼られた末、歴史的大敗を喫した。
PANEL7
初代ナイト・オウルの立像の足元に布が見える。ドライバーグを待ちながら、一人寂しく磨いていたのか。
PANEL8
カメラごと〜:該当するコマでは(P90 PANEL3)、カメラはまだスタジオにあるように見えるが、テレポート前のコマ(P86 PANEL3)と見比べると、ステージ正面のカメラらしき機械が消えている。ただし、これらのカメラは有線式であるため、スタジオから離れて使えるとは考え難い。P89 PANEL3のハンディカメラが、カメラマンごと飛ばされたのか。
<P92>
PANEL1
ノヴァ・エクスプレスの遅配は予定の行動であるが、スレーターのインタビューが取れたのは発行日当日だった。彼女なりのためらいがあったのかもしれない。
PANEL2
ノヴァ・エクスプレスの配達員がトラックに充電している。次のコマではもうソケットを外しているので、驚くほど短時間で充電できるものと思われる。
画面奥にドライバーグとローリーの姿が見える(P85 PANEL2参照。そちらのコマの画面奥にも注意)。このコマで一旦、時間軸が戻っていることになる。まったく油断も隙もならない。
<P93>
PANEL1
兵士が口ずさんでいるのは、ポリスのアルバム『白いレガッタ』(1979)収録の「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」。
PANEL2
本来の扉の色は黄色だが、DR.マンハッタンが発する蒼い光に照らされて薄緑に見える。テレポートの瞬間とその後の色の変化にも注意(PANEL6,7)。
PANEL6
全てが青に染まる中、筆のペンキだけが真っ赤に塗られている。赤=赤い星=火星と、DR.マンハッタンのその後の行動の暗示か。
<P94>
PANEL1
ジーラ・フラット:アリゾナ州中央部の平原。ちなみにアリゾナ州は、原爆開発計画"マンハッタン計画"の中心地となったニューメキシコ州の西隣に位置する。
実験場の標語「苦難を乗り越え、星の彼方へ」は、ラテン語で書かれている。
夜空に赤い星が見える。火星か。
PANEL4
これまでは絶妙に隠してきたが、ついにDR.マンハッタンの性器が描写された。DR.マンハッタンのコスチュームの面積は、彼の人間性の多少を象徴しており、その意味でも全裸の描写は避けて通ることはできなかったが、前例のないことでもあり、いつ、どこで見せるかにはかなり気を使ったという。また描写の仕方も懸案だったらしく、古代彫刻のような簡略化した描き方をすることで、余計な過剰反応を避けたという(これは私見になるが、DR.マンハッタンの肌が"ブルー"という非人間的な色だったこともプラスに働いたと思われる)。
なおムーアは、ウォッチメンと同時期にエクリプスコミックスで連載していた『ミラクルマン』#9(7/86)において、コミックス史上初となる本格的な出産シーンを描いている(ちなみに産まれたのはミラクルマンの娘)。まるで記録フィルムを見せられているようなリアルな出産描写は、DR.マンハッタンの全裸よりもはるかにショッキングなシーンであったため、同号の表紙には「おうちの方へ このエピソードには写実的な出産シーンが含まれています」との一文が加えられた(そもそも『ミラクルマン』自体、親が子供に買い与えるようなコミックスではないのだが…)。いずれにせよムーアは、性器に関するアメリカンコミックスのタブーをほぼ同時期に破ってみせたことになる。
出産シーンが描かれた「ミラクルマン#9」表紙
PANEL5
奇抜と魅惑:この標語は、クォークの一種であるストレンジ(奇抜)とチャーム(魅惑)と一致するが、標語は1959年の時点で既にボードに書かれており(P113 PANEL4)、クォークの存在が提唱されたのが1964年であることから、偶然の一致と見るべきだろう。
<P96>
PANEL3
はずれですな:DR.マンハッタンの失踪が第三次世界大戦を招きかけたという意味では、はずれどころか大当たりである。
ところで、世界終末の前兆といった超自然的な物言いは、無神論者のロールシャッハにはそぐわないし、P437のロールシャッハに関するムーアの説明でも、彼は狂信家を装っているとされているが、予言が的中している以上、ただの戯言とも思えない。そこまで徹底して、狂信家のコバックスになりきっているということか。あるいは、それが彼の本質なのか。
PANEL7
話しかけても返事をしない少年とスタンドの店主の関係は、構図的にも物言わぬ死体と漂流者の関係に重なる。
<P98>
PANEL3
時計は7時25分あたりを指している。ロールシャッハは、こんな朝からあの格好で街をうろついているのだろうか。
PANEL6
ロールシャッハが手にしているのは、ヴェイト社の香水ノスタルジアの瓶。丸い女性用とは形が違う( P43 PANEL2参照)。
PANEL7
ひと捻りで壊れた:あれだけ言われても、隠し通路を使うつもりはないらしい。
PANEL8
断りもせずに香水を胸ポケットにしまうロールシャッハ。さしもの彼も自分の臭いが気になるのか。
<P99>
PANEL2
ピラミッド宅配社のトラックが充電中。
PANEL3
フラッシュマン:1940年に登場したDCコミックスのヒーロー、初代フラッシュのことか。名前を間違っているが、もう昔のことなのでうろ覚えなのだろう。
初代フラッシュ
PANEL7
バーニィ少年のパーカーもヴェイト社の製品。
<P100>
PANEL1
赤い星:DR.マンハッタンが消えた途端、俄然、張り切り始めたソビエトを揶揄した表現。赤は共産主義を象徴する色である。
PANEL2
ニクソン大統領の椅子の背中に貼られているのは、合衆国大統領の紋章。
PANEL5
状況がわかりにくいが、DR.マンハッタンは岩にこしかけて、膝に両手を置いている。このコマだけ、時間軸が少し進んでいる(P102 PANEL4参照)。
PANEL6
大統領の右隣で大騒ぎしているのは、キッシンジャー国務長官。
ヘンリー・キッシンジャー(1923〜):高名な国際政治学者で、安全保障問題への提言を見込まれ、1968年に国家安全保障問題担当大統領補佐官としてニクソン政権に入閣、73年からは国務長官も兼任した。高い外交手腕で知られ、当時、ソビエトと対立していた中国と和解し、米ソの冷戦構造を米中ソの三極構造に組み替えることでデタントを推し進めると同時に、中ソの支援を受けていた北ベトナムを孤立させ、ベトナム戦争を和平に持ち込むなど、国益を第一に考える現実主義的な外交政策を展開した(一方で理想主義者たちは、中ソと手を結ぶニクソンとキッシンジャーの政策に不満を持っており、79年のソビエトのアフガニスタン侵攻をきっかけに新たな冷戦構造を推し進め、レーガン政権下で新保守主義が台頭することになる)。ニクソン辞任後はフォード政権でも国務長官を務めたが、フォード政権の終焉とともに退任。以後、国際政治の専門家として内外に大きな影響力を発揮し続けている。
PANEL2
アドレナリン:興奮、怒り、恐怖などを感じた時に分泌される副腎皮質刺激ホルモン。
PANEL6
画面奥の時計が7時40分あたりを指している。ようやく時計が時計としての役割を果たし始めたようだ。
<P91>
PANEL2
ニュー・フロンティアズマンの広告の"正しい(RIGHT)"に、翼を意味する"WING"が落書きされ、"RIGHT WING"に(右翼、RIGHTには右の意味もある)なってしまっている。街に落書きをするような若者が同紙をどう思っているか、また、同紙がどのような政治傾向を持っているかが伺える。
なお広告の文句は、1964年の大統領選挙に出馬した共和党候補バリー・ゴールドウォーターのスローガン"IN YOUR HEART, YOU KNOW HE MIGHT(あなたの心に彼は正しい)"をもじったもの。厳しい予備選を勝ち抜いたゴールドウォーターだったが、民主党のジョンソン陣営によって、右翼、人種差別主義者とのレッテルを貼られた末、歴史的大敗を喫した。
PANEL7
初代ナイト・オウルの立像の足元に布が見える。ドライバーグを待ちながら、一人寂しく磨いていたのか。
PANEL8
カメラごと〜:該当するコマでは(P90 PANEL3)、カメラはまだスタジオにあるように見えるが、テレポート前のコマ(P86 PANEL3)と見比べると、ステージ正面のカメラらしき機械が消えている。ただし、これらのカメラは有線式であるため、スタジオから離れて使えるとは考え難い。P89 PANEL3のハンディカメラが、カメラマンごと飛ばされたのか。
<P92>
PANEL1
ノヴァ・エクスプレスの遅配は予定の行動であるが、スレーターのインタビューが取れたのは発行日当日だった。彼女なりのためらいがあったのかもしれない。
PANEL2
ノヴァ・エクスプレスの配達員がトラックに充電している。次のコマではもうソケットを外しているので、驚くほど短時間で充電できるものと思われる。
画面奥にドライバーグとローリーの姿が見える(P85 PANEL2参照。そちらのコマの画面奥にも注意)。このコマで一旦、時間軸が戻っていることになる。まったく油断も隙もならない。
<P93>
PANEL1
兵士が口ずさんでいるのは、ポリスのアルバム『白いレガッタ』(1979)収録の「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」。
PANEL2
本来の扉の色は黄色だが、DR.マンハッタンが発する蒼い光に照らされて薄緑に見える。テレポートの瞬間とその後の色の変化にも注意(PANEL6,7)。
PANEL6
全てが青に染まる中、筆のペンキだけが真っ赤に塗られている。赤=赤い星=火星と、DR.マンハッタンのその後の行動の暗示か。
<P94>
PANEL1
ジーラ・フラット:アリゾナ州中央部の平原。ちなみにアリゾナ州は、原爆開発計画"マンハッタン計画"の中心地となったニューメキシコ州の西隣に位置する。
実験場の標語「苦難を乗り越え、星の彼方へ」は、ラテン語で書かれている。
夜空に赤い星が見える。火星か。
PANEL4
これまでは絶妙に隠してきたが、ついにDR.マンハッタンの性器が描写された。DR.マンハッタンのコスチュームの面積は、彼の人間性の多少を象徴しており、その意味でも全裸の描写は避けて通ることはできなかったが、前例のないことでもあり、いつ、どこで見せるかにはかなり気を使ったという。また描写の仕方も懸案だったらしく、古代彫刻のような簡略化した描き方をすることで、余計な過剰反応を避けたという(これは私見になるが、DR.マンハッタンの肌が"ブルー"という非人間的な色だったこともプラスに働いたと思われる)。
なおムーアは、ウォッチメンと同時期にエクリプスコミックスで連載していた『ミラクルマン』#9(7/86)において、コミックス史上初となる本格的な出産シーンを描いている(ちなみに産まれたのはミラクルマンの娘)。まるで記録フィルムを見せられているようなリアルな出産描写は、DR.マンハッタンの全裸よりもはるかにショッキングなシーンであったため、同号の表紙には「おうちの方へ このエピソードには写実的な出産シーンが含まれています」との一文が加えられた(そもそも『ミラクルマン』自体、親が子供に買い与えるようなコミックスではないのだが…)。いずれにせよムーアは、性器に関するアメリカンコミックスのタブーをほぼ同時期に破ってみせたことになる。
PANEL5
奇抜と魅惑:この標語は、クォークの一種であるストレンジ(奇抜)とチャーム(魅惑)と一致するが、標語は1959年の時点で既にボードに書かれており(P113 PANEL4)、クォークの存在が提唱されたのが1964年であることから、偶然の一致と見るべきだろう。
<P96>
PANEL3
はずれですな:DR.マンハッタンの失踪が第三次世界大戦を招きかけたという意味では、はずれどころか大当たりである。
ところで、世界終末の前兆といった超自然的な物言いは、無神論者のロールシャッハにはそぐわないし、P437のロールシャッハに関するムーアの説明でも、彼は狂信家を装っているとされているが、予言が的中している以上、ただの戯言とも思えない。そこまで徹底して、狂信家のコバックスになりきっているということか。あるいは、それが彼の本質なのか。
PANEL7
話しかけても返事をしない少年とスタンドの店主の関係は、構図的にも物言わぬ死体と漂流者の関係に重なる。
<P98>
PANEL3
時計は7時25分あたりを指している。ロールシャッハは、こんな朝からあの格好で街をうろついているのだろうか。
PANEL6
ロールシャッハが手にしているのは、ヴェイト社の香水ノスタルジアの瓶。丸い女性用とは形が違う( P43 PANEL2参照)。
PANEL7
ひと捻りで壊れた:あれだけ言われても、隠し通路を使うつもりはないらしい。
PANEL8
断りもせずに香水を胸ポケットにしまうロールシャッハ。さしもの彼も自分の臭いが気になるのか。
<P99>
PANEL2
ピラミッド宅配社のトラックが充電中。
PANEL3
フラッシュマン:1940年に登場したDCコミックスのヒーロー、初代フラッシュのことか。名前を間違っているが、もう昔のことなのでうろ覚えなのだろう。
PANEL7
バーニィ少年のパーカーもヴェイト社の製品。
<P100>
PANEL1
赤い星:DR.マンハッタンが消えた途端、俄然、張り切り始めたソビエトを揶揄した表現。赤は共産主義を象徴する色である。
PANEL2
ニクソン大統領の椅子の背中に貼られているのは、合衆国大統領の紋章。
PANEL5
状況がわかりにくいが、DR.マンハッタンは岩にこしかけて、膝に両手を置いている。このコマだけ、時間軸が少し進んでいる(P102 PANEL4参照)。
PANEL6
大統領の右隣で大騒ぎしているのは、キッシンジャー国務長官。
ヘンリー・キッシンジャー(1923〜):高名な国際政治学者で、安全保障問題への提言を見込まれ、1968年に国家安全保障問題担当大統領補佐官としてニクソン政権に入閣、73年からは国務長官も兼任した。高い外交手腕で知られ、当時、ソビエトと対立していた中国と和解し、米ソの冷戦構造を米中ソの三極構造に組み替えることでデタントを推し進めると同時に、中ソの支援を受けていた北ベトナムを孤立させ、ベトナム戦争を和平に持ち込むなど、国益を第一に考える現実主義的な外交政策を展開した(一方で理想主義者たちは、中ソと手を結ぶニクソンとキッシンジャーの政策に不満を持っており、79年のソビエトのアフガニスタン侵攻をきっかけに新たな冷戦構造を推し進め、レーガン政権下で新保守主義が台頭することになる)。ニクソン辞任後はフォード政権でも国務長官を務めたが、フォード政権の終焉とともに退任。以後、国際政治の専門家として内外に大きな影響力を発揮し続けている。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.26.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(7) CHAPTER 3 [P75〜P89]
<P75>
PANEL1
直前のコマのセリフをそのまま続けて次のコマの内容を補完するという手法は、1話の冒頭から使われていたが、この3話からは、バーニィ少年が読んでいるコミック『黒の船』の内容が、一冊のコミックとして成立していながら、同時にメインのストーリーにも絡むという、より複雑な手法が試みられている(ただしその結果、バーニィは一冊のコミックをいったい何時間かけて読んでいるんだ、という突っ込みもできてはしまうのだが)。
マガジンスタンド(映画版より)
PANEL3
カストロ:フィデル・カストロ(1926〜)。キューバ国家評議界議長・首相(2008年に退任)。1959年、民族民主革命を標榜し、当時のバティスタ独裁政権を打倒して革命政府の首相となった。アメリカからわずか150キロの島国に社会主義国家が建設されたことに対する米政府の危機感は大きく、60年代には、幾度となくカストロ政権転覆が試みられたが、いずれも失敗に終っている。
PANEL4
3度の心臓手術後〜:1913年生まれのニクソンは、1985年の時点で72歳。彼が3回もの心臓手術に耐えられたのは、DR.マンハッタンの開発した新たな医療技術のおかげであろう。なお、ニクソンが心臓病を患っていたという事実はなく、死因も脳卒中が原因だった。
プロメシアン・タクシー:プロメシアンの名は、ギリシャ神話の神で先見の明を持つ者プロメテウスに由来する。
背景の市公用車のボディに描かれたリンゴは、実際のニューヨーク市の愛称ビッグ・アップルに因む。荷台には核シェルターの看板が山と積まれており、緊迫した社会状況が伺える。
バーニィのパンツの左ヒザには継ぎが当ててある。家庭の経済状況が察せられる。彼が履いているスニーカーにはヴェイト社のロゴが入っている。
<P76>
PANEL4
バーニィの吸っている煙草も手巻きである。読むのに何時間もかかるコミック同様、煙草も何時間経ってもなくならない(足元に吸殻が落ちていない)。
PANEL5
アトラス:ギリシャ神話に登場する巨人。神々に反抗した罪として、生涯、天空を支えることを命じられた。
『黒の船』のページは、1960年代に作られたコミックの雰囲気を出すために、わざとドットの荒い着色が成されている(1986年発売のオリジナル版では、色の使い方を変えることで、制作年代の違いを表現していた)。デジタル彩色ならではの効果と言えよう。
PANEL9
コバックスの背後に見えるユートピア劇場の看板は、古典SF映画『宇宙水爆戦』のもの。『宇宙水爆戦(原題:この島たる地球)』は1955年製作のSF映画で、メタルーナとザーゴンの宇宙戦争に巻き込まれた地球人科学者の活躍を描く。
<P77>
PANEL2
ナショナル・エグザミナー:架空の新聞。ヨタ話ばかり集めたタブロイド新聞と思われる。モデルは、実在のゴシップ紙『ナショナル・エンクワイラー』か。
クイーンズ:ニューヨーク市の五つある行政区の一つで、マンハッタンからイースト川を挟んで対岸に位置する。
背後の研究所の表示がフキダシなどで隠れた結果、"DIE(死ぬ)"という部分だけが目につく。実際、このコマに描かれた3人は、生きて結末を迎えることはない。
PANEL6
ネメシス:ギリシャ神話に登場する、天罰と復讐の女神。目を布で覆い、完璧なまでに公平な裁きを下す。
<P79>
PANEL5
二人のDR.マンハッタンを象徴するかのように、机の上に二組のビンが並んでいる。
PANEL9
JFKの暗殺:1963年11月22日、ダラスで起きたジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件のこと。その日の内にソビエト帰りの青年リー・ハーベイ・オズワルドが犯人として逮捕されたが、2日後、ダラス市警本部から郡拘置所への移送中に、バーの経営者で裏社会ともつながりを持つジャック・ルビーによって射殺された。ケネディ大統領暗殺に関する大統領特命調査委員会、通称、ウォーレン委員会は、オズワルドの単独犯行と結論づけたが、マフィア、CIAなどの陰謀説も根強く、未だに真相は解明されていない。ちなみに、現行犯逮捕されたルビーは獄中で「誰かに癌細胞を注射された」などと不可解な言動を繰り返していたという(1967年、肺塞栓症で死亡)。
JFK:ジョン・F・ケネディ(1917〜1963)。第35代合衆国大統領。民主党所属。1960年の選挙で、共和党候補ニクソンを破り、史上最年少の43歳の若さで大統領の座に就いた。就任早々に起きたキューバ危機では、ぎりぎりの所で核戦争を回避。その後も、ベトナム派兵、公民権問題など、幾多の難局に直面したが、1963年、志半ばにして、遊説先のダラスにて暗殺された。その就任期間はわずか3年でしかなかったが、若き理想家、新時代の旗手というイメージは、今なお多くの国民の胸に生き続けている。
<P80>
PANEL6
ローリーを乗せたのは、ゲイのタクシー運転手ジョーイ。ローリーが気になるのか、バックミラーでチラ見している。橋を渡っていることから、ロックフェラー軍事研究所はマンハッタンの外にあることがわかる。
ローリーがイヤリングを外していることに注意。DR.マンハッタンとの別離の意志の表れか。
<P81>
PANEL1
スレーターの咳の激しさに、画面右奥で話し込んでいた二人が思わず振り返っている。
PANEL2
コミックショップ「宝島」のウィンドウに貼ってあるポスターの文字は「バウンティ号の反乱」。1789年、南太平洋を航行中のイギリスの軍艦バウンティ号で乗員の反乱が発生。乗員たちは船を乗っ取った上、艦長らを救命艇に乗せて追放した。この事件は何度も映画化されており、作品世界でも、話題のコミックスになっているようである。
PANEL3
激しく咳き込んだせいで、スレーターはコップを倒してしまっている。次のコマの彼女のセリフ「一度、壊れてしまえば、二度と元には戻らないものも〜」に近い意味の慣用句「It's no use crying over spilt milk(こぼれたミルクを嘆いても無駄)」を連想させる描写。
PANEL4
鍵屋の男が鍵を修繕しているが、スレーターのセリフ「一度、壊れてしまえば、二度と元には戻らないものも〜」の通りに、結局、この鍵は壊され続ける運命にある(P98 PANEL7、P252 PANEL1、P268 PANEL1参照)。
壊されるという意味では、モーロックの部屋の鍵も同様であり(P165 PANEL6参照)、ムーアが、アレキサンダー大王が一刀両断したゴルディアスの結び目=ゴルディアン・ノットを社名に選んだ時点で、これらの鍵の処遇は決まっていたのだろう。
背後でジョーイのタクシーがUターンしていることからも、「宝島」とドライバーグのアパートの位置関係がわかる。
PANEL6
作業中にもかかわらずドアを開けるローリーに、鍵屋の男がイラついている。
<P82>
PANEL4
電気ポットにもヴェイト社のマークが入っている。取っ手の先のボタンを押すとお湯が沸く仕組みらしく、沸かしている間はランプが点灯している。
PANEL5
砂糖が一個しか入っていないのは、ロールシャッハが持って行ってしまったため(P17 PANEL6参照)。
<P83>
PANEL3
お湯が沸いたので、ランプが消えた。
PANEL4
クォーク:レプトンと並び、物質を構成する最小単位とされる素粒子。通常の環境下では、クォークのみを陽子などから取り出して観察することは不可能とされているが、DR.マンハッタンならば可能なのかもしれない。
PANEL9
カレンダーのフクロウの目が、DR.マンハッタンの目にダブる。実は二人の関係を見通していたことの暗示か。
<P84>
PANEL1
若干、わかりにくいが、コーヒーに映ったローリーの右目と波紋が、スマイリーの血痕に似たパターンを描いている。
PANEL6
宙に浮いたカフスボタンも一緒にテレポートしている。
PANEL8
ABCテレビ:正式名称は、American Broadcasting Companiesの略。実在の放送局で、CBC、NBCと並ぶアメリカ3大ネットの一つ。本社はマンハッタンの西66丁目に位置する。
<P85>
PANEL2
二人が歩いているのは、40丁目と七番街の角。DR.マンハッタンがいるABCテレビ本社とは、直線距離にして2㎞程の位置。
画面手前のポスターは『宇宙水爆戦』のもので、メタルーナ人の奴隷である昆虫人間メタルーナ・ミュータントが描かれている。画面に右端に見えているのは、ユートピア劇場の次回上映作品『来るべき世界』のポスター。『来るべき世界』は1936年製作のSF映画の古典で、原作者で、SFの父とも称されるH.G.ウェルズが脚本も担当している。1940年に起きた世界戦争によって絶滅の危機に瀕した人類の、百年に及ぶ復興の歴史を描いた大作。
(左)宇宙水爆戦(右)来るべき世界 ポスター
PANEL6
ストリートギャングのジャケットの背中に書かれている文字は、漢字の"反"。アンチの意味か。
<P86>
PANEL3
番組の司会者の名前はベニー・アンガー。
PANEL5
バックス・バニー:ワーナー・ブラザーズのアニメーション『ルーニー・チューンズ』のシンボル的存在であるウサギのキャラクター。人を食った性格で、「どうしたんだい、ドク?(What's up, Doc?)」の決まり文句でいつも相手をからかっている。ちなみにワーナー・ブラザーズは『ウォッチメン』の発売元であるDCコミックスの親会社である。
バックス・バニー。日本語吹き替えでは「どったの、センセー?」
<P87>
PANEL3
DR.マンハッタンの相棒:英語で表記すると"DR.MANHATTAN'S BUDDY"。この表現は、スーパーマンの友人でデイリー・プラネット紙のカメラマンであるジミー・オルセンのかつてのニックネーム"SUPERMAN'S PAL"にちなんだものと思われる。60年代当時の、ウォリーとDR.マンハッタンの親しい関係が伺える。
<P89>
PANEL1
ワシントン・ポスト:1877年に創刊された実在の有力紙。ウォーターゲート事件を暴いたことで有名。左寄り、リベラルな編集姿勢で知られる。
PANEL3
エンクワイラー:実在のタブロイド紙『ナショナル・エンクワイラー』のことと思われる。質問の内容もそれらしい。
PANEL1
直前のコマのセリフをそのまま続けて次のコマの内容を補完するという手法は、1話の冒頭から使われていたが、この3話からは、バーニィ少年が読んでいるコミック『黒の船』の内容が、一冊のコミックとして成立していながら、同時にメインのストーリーにも絡むという、より複雑な手法が試みられている(ただしその結果、バーニィは一冊のコミックをいったい何時間かけて読んでいるんだ、という突っ込みもできてはしまうのだが)。
PANEL3
カストロ:フィデル・カストロ(1926〜)。キューバ国家評議界議長・首相(2008年に退任)。1959年、民族民主革命を標榜し、当時のバティスタ独裁政権を打倒して革命政府の首相となった。アメリカからわずか150キロの島国に社会主義国家が建設されたことに対する米政府の危機感は大きく、60年代には、幾度となくカストロ政権転覆が試みられたが、いずれも失敗に終っている。
PANEL4
3度の心臓手術後〜:1913年生まれのニクソンは、1985年の時点で72歳。彼が3回もの心臓手術に耐えられたのは、DR.マンハッタンの開発した新たな医療技術のおかげであろう。なお、ニクソンが心臓病を患っていたという事実はなく、死因も脳卒中が原因だった。
プロメシアン・タクシー:プロメシアンの名は、ギリシャ神話の神で先見の明を持つ者プロメテウスに由来する。
背景の市公用車のボディに描かれたリンゴは、実際のニューヨーク市の愛称ビッグ・アップルに因む。荷台には核シェルターの看板が山と積まれており、緊迫した社会状況が伺える。
バーニィのパンツの左ヒザには継ぎが当ててある。家庭の経済状況が察せられる。彼が履いているスニーカーにはヴェイト社のロゴが入っている。
<P76>
PANEL4
バーニィの吸っている煙草も手巻きである。読むのに何時間もかかるコミック同様、煙草も何時間経ってもなくならない(足元に吸殻が落ちていない)。
PANEL5
アトラス:ギリシャ神話に登場する巨人。神々に反抗した罪として、生涯、天空を支えることを命じられた。
『黒の船』のページは、1960年代に作られたコミックの雰囲気を出すために、わざとドットの荒い着色が成されている(1986年発売のオリジナル版では、色の使い方を変えることで、制作年代の違いを表現していた)。デジタル彩色ならではの効果と言えよう。
PANEL9
コバックスの背後に見えるユートピア劇場の看板は、古典SF映画『宇宙水爆戦』のもの。『宇宙水爆戦(原題:この島たる地球)』は1955年製作のSF映画で、メタルーナとザーゴンの宇宙戦争に巻き込まれた地球人科学者の活躍を描く。
<P77>
PANEL2
ナショナル・エグザミナー:架空の新聞。ヨタ話ばかり集めたタブロイド新聞と思われる。モデルは、実在のゴシップ紙『ナショナル・エンクワイラー』か。
クイーンズ:ニューヨーク市の五つある行政区の一つで、マンハッタンからイースト川を挟んで対岸に位置する。
背後の研究所の表示がフキダシなどで隠れた結果、"DIE(死ぬ)"という部分だけが目につく。実際、このコマに描かれた3人は、生きて結末を迎えることはない。
PANEL6
ネメシス:ギリシャ神話に登場する、天罰と復讐の女神。目を布で覆い、完璧なまでに公平な裁きを下す。
<P79>
PANEL5
二人のDR.マンハッタンを象徴するかのように、机の上に二組のビンが並んでいる。
PANEL9
JFKの暗殺:1963年11月22日、ダラスで起きたジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件のこと。その日の内にソビエト帰りの青年リー・ハーベイ・オズワルドが犯人として逮捕されたが、2日後、ダラス市警本部から郡拘置所への移送中に、バーの経営者で裏社会ともつながりを持つジャック・ルビーによって射殺された。ケネディ大統領暗殺に関する大統領特命調査委員会、通称、ウォーレン委員会は、オズワルドの単独犯行と結論づけたが、マフィア、CIAなどの陰謀説も根強く、未だに真相は解明されていない。ちなみに、現行犯逮捕されたルビーは獄中で「誰かに癌細胞を注射された」などと不可解な言動を繰り返していたという(1967年、肺塞栓症で死亡)。
JFK:ジョン・F・ケネディ(1917〜1963)。第35代合衆国大統領。民主党所属。1960年の選挙で、共和党候補ニクソンを破り、史上最年少の43歳の若さで大統領の座に就いた。就任早々に起きたキューバ危機では、ぎりぎりの所で核戦争を回避。その後も、ベトナム派兵、公民権問題など、幾多の難局に直面したが、1963年、志半ばにして、遊説先のダラスにて暗殺された。その就任期間はわずか3年でしかなかったが、若き理想家、新時代の旗手というイメージは、今なお多くの国民の胸に生き続けている。
<P80>
PANEL6
ローリーを乗せたのは、ゲイのタクシー運転手ジョーイ。ローリーが気になるのか、バックミラーでチラ見している。橋を渡っていることから、ロックフェラー軍事研究所はマンハッタンの外にあることがわかる。
ローリーがイヤリングを外していることに注意。DR.マンハッタンとの別離の意志の表れか。
<P81>
PANEL1
スレーターの咳の激しさに、画面右奥で話し込んでいた二人が思わず振り返っている。
PANEL2
コミックショップ「宝島」のウィンドウに貼ってあるポスターの文字は「バウンティ号の反乱」。1789年、南太平洋を航行中のイギリスの軍艦バウンティ号で乗員の反乱が発生。乗員たちは船を乗っ取った上、艦長らを救命艇に乗せて追放した。この事件は何度も映画化されており、作品世界でも、話題のコミックスになっているようである。
PANEL3
激しく咳き込んだせいで、スレーターはコップを倒してしまっている。次のコマの彼女のセリフ「一度、壊れてしまえば、二度と元には戻らないものも〜」に近い意味の慣用句「It's no use crying over spilt milk(こぼれたミルクを嘆いても無駄)」を連想させる描写。
PANEL4
鍵屋の男が鍵を修繕しているが、スレーターのセリフ「一度、壊れてしまえば、二度と元には戻らないものも〜」の通りに、結局、この鍵は壊され続ける運命にある(P98 PANEL7、P252 PANEL1、P268 PANEL1参照)。
壊されるという意味では、モーロックの部屋の鍵も同様であり(P165 PANEL6参照)、ムーアが、アレキサンダー大王が一刀両断したゴルディアスの結び目=ゴルディアン・ノットを社名に選んだ時点で、これらの鍵の処遇は決まっていたのだろう。
背後でジョーイのタクシーがUターンしていることからも、「宝島」とドライバーグのアパートの位置関係がわかる。
PANEL6
作業中にもかかわらずドアを開けるローリーに、鍵屋の男がイラついている。
<P82>
PANEL4
電気ポットにもヴェイト社のマークが入っている。取っ手の先のボタンを押すとお湯が沸く仕組みらしく、沸かしている間はランプが点灯している。
PANEL5
砂糖が一個しか入っていないのは、ロールシャッハが持って行ってしまったため(P17 PANEL6参照)。
<P83>
PANEL3
お湯が沸いたので、ランプが消えた。
PANEL4
クォーク:レプトンと並び、物質を構成する最小単位とされる素粒子。通常の環境下では、クォークのみを陽子などから取り出して観察することは不可能とされているが、DR.マンハッタンならば可能なのかもしれない。
PANEL9
カレンダーのフクロウの目が、DR.マンハッタンの目にダブる。実は二人の関係を見通していたことの暗示か。
<P84>
PANEL1
若干、わかりにくいが、コーヒーに映ったローリーの右目と波紋が、スマイリーの血痕に似たパターンを描いている。
PANEL6
宙に浮いたカフスボタンも一緒にテレポートしている。
PANEL8
ABCテレビ:正式名称は、American Broadcasting Companiesの略。実在の放送局で、CBC、NBCと並ぶアメリカ3大ネットの一つ。本社はマンハッタンの西66丁目に位置する。
<P85>
PANEL2
二人が歩いているのは、40丁目と七番街の角。DR.マンハッタンがいるABCテレビ本社とは、直線距離にして2㎞程の位置。
画面手前のポスターは『宇宙水爆戦』のもので、メタルーナ人の奴隷である昆虫人間メタルーナ・ミュータントが描かれている。画面に右端に見えているのは、ユートピア劇場の次回上映作品『来るべき世界』のポスター。『来るべき世界』は1936年製作のSF映画の古典で、原作者で、SFの父とも称されるH.G.ウェルズが脚本も担当している。1940年に起きた世界戦争によって絶滅の危機に瀕した人類の、百年に及ぶ復興の歴史を描いた大作。
PANEL6
ストリートギャングのジャケットの背中に書かれている文字は、漢字の"反"。アンチの意味か。
<P86>
PANEL3
番組の司会者の名前はベニー・アンガー。
PANEL5
バックス・バニー:ワーナー・ブラザーズのアニメーション『ルーニー・チューンズ』のシンボル的存在であるウサギのキャラクター。人を食った性格で、「どうしたんだい、ドク?(What's up, Doc?)」の決まり文句でいつも相手をからかっている。ちなみにワーナー・ブラザーズは『ウォッチメン』の発売元であるDCコミックスの親会社である。
<P87>
PANEL3
DR.マンハッタンの相棒:英語で表記すると"DR.MANHATTAN'S BUDDY"。この表現は、スーパーマンの友人でデイリー・プラネット紙のカメラマンであるジミー・オルセンのかつてのニックネーム"SUPERMAN'S PAL"にちなんだものと思われる。60年代当時の、ウォリーとDR.マンハッタンの親しい関係が伺える。
<P89>
PANEL1
ワシントン・ポスト:1877年に創刊された実在の有力紙。ウォーターゲート事件を暴いたことで有名。左寄り、リベラルな編集姿勢で知られる。
PANEL3
エンクワイラー:実在のタブロイド紙『ナショナル・エンクワイラー』のことと思われる。質問の内容もそれらしい。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.25.2009
映画関連グッズ「WATCHMEN MOVIE/ DOOMSDAY BLOODY WALL CLOCK」
WATCHMEN MOVIE/ DOOMSDAY BLOODY WALL CLOCK
価格: 3,800円 (税込) 送料別
SHOP: 豆魚雷(楽天市場)
アメコミの中のアメコミとして有名な『ウォッチメン』。2009年の超重要映画として公開が待たれる『ウォッチメン』より終末時計を模した壁掛け時計がリリース。ザ・コメディアンの「スマイル」マークをフィーチャーし、黄色と黒、そして血がついたクールなデザイン。
その他の「ウォッチメン」関連商品を見る!
ラベル:
ウォッチメン商品
3.23.2009
「ウォッチメン」リンク集
映画、原作コミックの「ウォッチメン」に関連するサイトのリンク一覧です。
リンク先のサイト名が日本語になっているもの以外、すべて英語サイトですが、最新情報でも作品研究でも詳細なサイトが多いので、興味がある人はウォッチを。
随時アップデートします。
<映画オフィシャル>
映画『ウォッチメン』公式サイト
*立ち上げると音出ます
映画『ウォッチメン』公式ブログ
映画キャンペーン等の最新情報はここから。いろいろやってます。
映画『ウォッチメン』NEW FRONTIERSMAN
日本の映画キャンペーンサイト。登録するとウェビソード(メイキングビデオ)が字幕付きで見られます。
Nifty映画『ウォッチメン』
ニフティの映画キャンペーンサイト。日本オリジナルのウィジット配布。
Watchmen
英語版公式サイト。
*立ち上げると音出ます
I Watch the Watchmen
配給のパラマウントによるウォッチメンのキャンペーンサイト。壁紙やアイコン、ウィジットの配布など。
The New Frontiersman(ヴァイラルサイト)
劇中に登場する新聞、「ニュー・フロンティアズマン」の仮想サイトです。劇中当時の綴じ込みファイルを参照できる形になっています。
<映画関連>
Watchmen(2009) -IMDb
Internet Movie Databaseのウォッチメンページ。
Youtube WatchmenMovie
Youtubeのウォッチメン公式チャンネル。予告編が観られるほか、ファンによるオリジナル映像コンテストなども開催されました。
WatchmenComicMovie.com
映画ニュースすべてをウォッチする最大級ファンサイト。おすすめ
<サウンドトラック>
ワーナーミュージック WATCHMEN / ウォッチメン リリース情報
ワーナーミュージックジャパンのサイト。映画のサントラを試聴できます。
Watchmen: Original Motion Picture Soundtrack
英語版の映画のオリジナルサウンドトラック公式サイト。ビニール版の購入もできるそうです(でも日本からの購入は多分不可)
<映画関連商品>
The World of Watchmen
ワーナーによる「ウォッチメン」関連DVDとゲームのサイトにリンクするポータル。
*立ち上げると音出ます
DC Comics Watchmen Movie
DCコミックスによる映画紹介ページ。関連グッズ(映画レプリカと映画フィギュア)の紹介があります。
映画グッズ専門ショップ フルービー「ウォッチメン」
松竹の映画グッズの「ウォッチメン」ページ。映画館で販売しているグッズがここでも購入できます。
Blister ウォッチメン特設ページ
原宿にあるショップ、ブリスターで開催の「ウォッチメン・フェア」ページ。トイなどのほか、映画館グッズの取り扱いもあるそうです。
TOWER BOOKSキャンペーン情報 映画「ウォッチメン」キャンペーン続報!!
タワーレコード渋谷店7F TOWER BOOKSにてウォッチメンの書籍やDVDなどを集めたキャンペーンを展開中です。
<原作>
小学館集英社プロダクション ウォッチメン関連書籍2冊同時発売!
言わずとしれた日本語版。コミック増刷決定、買い逃し厳禁です!
DC Comics Wathmen
原作コミックの出版元、DCコミックスによるウォッチメンのミニサイト。
Watchmen Wiki
ウォッチメンのことなら何でも網羅するWiki
<アラン・ムーア>
Alan Moore Interview
オンラインと紙媒体のアラン・ムーアのインタビューを丹念に拾い集めた記録。過去の記事も参照できます。ぜひムーア先生のオモシロ発言の数々を総ざらえしてみてください。おすすめ
<ゲーム>
6 Minutes to Midnight
プロモーション用のミニゲーム。ロールシャッハになって真夜中の街をうろつくインタラクティブムービーです。英語でパズルを解く必要があります。
Watchmen: The End Is Nigh
X-Box、PS3などで発売になったゲームの公式サイト。ゲームの舞台はキーン条約以前の1972年が舞台。プレーヤーはロールシャッハ、またはナイトオウル2世になって悪者と戦います。日本での発売は不明。
*ゲーム中残酷な表現があるため、18歳以下閲覧禁止になっています。トップページでは18歳以上であることを証明する誕生年月日を入れてください。
Watchmen: Justice is Coming
iPhoneとiPod touch用のオンラインゲームの公式サイト。こちらでは時代は1975年、プレーヤーは犯罪と戦うウォッチメンになります。自分でウォッチメンのメンバーを新規に作ることもできます。
<その他>
James Jean
初代シルクスペクターのピンナップを担当したイラストレーター、ジェームス・ジーンのサイト。
Deviant Art by Adam Hughes -Nite Owl for WATCHMEN Film
- Silk Spectre
- Ozymandias and The Comedian
コミックアーティスト、アダム・ヒューズによる「ウォッチメン」のためのコスチュームデザインのスケッチ。結局このデザインは採用されませんでしたが、アイデア的にはパーツで採用されている部分も。
リンク先のサイト名が日本語になっているもの以外、すべて英語サイトですが、最新情報でも作品研究でも詳細なサイトが多いので、興味がある人はウォッチを。
随時アップデートします。
<映画オフィシャル>
映画『ウォッチメン』公式サイト
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映画『ウォッチメン』NEW FRONTIERSMAN
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Nifty映画『ウォッチメン』
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Watchmen
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<映画関連>
Watchmen(2009) -IMDb
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Youtube WatchmenMovie
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<サウンドトラック>
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Watchmen: Original Motion Picture Soundtrack
英語版の映画のオリジナルサウンドトラック公式サイト。ビニール版の購入もできるそうです(でも日本からの購入は多分不可)
<映画関連商品>
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DC Comics Watchmen Movie
DCコミックスによる映画紹介ページ。関連グッズ(映画レプリカと映画フィギュア)の紹介があります。
映画グッズ専門ショップ フルービー「ウォッチメン」
松竹の映画グッズの「ウォッチメン」ページ。映画館で販売しているグッズがここでも購入できます。
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TOWER BOOKSキャンペーン情報 映画「ウォッチメン」キャンペーン続報!!
タワーレコード渋谷店7F TOWER BOOKSにてウォッチメンの書籍やDVDなどを集めたキャンペーンを展開中です。
<原作>
小学館集英社プロダクション ウォッチメン関連書籍2冊同時発売!
言わずとしれた日本語版。コミック増刷決定、買い逃し厳禁です!
DC Comics Wathmen
原作コミックの出版元、DCコミックスによるウォッチメンのミニサイト。
Watchmen Wiki
ウォッチメンのことなら何でも網羅するWiki
<アラン・ムーア>
Alan Moore Interview
オンラインと紙媒体のアラン・ムーアのインタビューを丹念に拾い集めた記録。過去の記事も参照できます。ぜひムーア先生のオモシロ発言の数々を総ざらえしてみてください。おすすめ
<ゲーム>
6 Minutes to Midnight
プロモーション用のミニゲーム。ロールシャッハになって真夜中の街をうろつくインタラクティブムービーです。英語でパズルを解く必要があります。
Watchmen: The End Is Nigh
X-Box、PS3などで発売になったゲームの公式サイト。ゲームの舞台はキーン条約以前の1972年が舞台。プレーヤーはロールシャッハ、またはナイトオウル2世になって悪者と戦います。日本での発売は不明。
*ゲーム中残酷な表現があるため、18歳以下閲覧禁止になっています。トップページでは18歳以上であることを証明する誕生年月日を入れてください。
Watchmen: Justice is Coming
iPhoneとiPod touch用のオンラインゲームの公式サイト。こちらでは時代は1975年、プレーヤーは犯罪と戦うウォッチメンになります。自分でウォッチメンのメンバーを新規に作ることもできます。
<その他>
James Jean
初代シルクスペクターのピンナップを担当したイラストレーター、ジェームス・ジーンのサイト。
Deviant Art by Adam Hughes -Nite Owl for WATCHMEN Film
- Silk Spectre
- Ozymandias and The Comedian
コミックアーティスト、アダム・ヒューズによる「ウォッチメン」のためのコスチュームデザインのスケッチ。結局このデザインは採用されませんでしたが、アイデア的にはパーツで採用されている部分も。
ラベル:
ウォッチメンリンク
3.21.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(6) CHAPTER 2 [P70〜P72]
<P70>
真珠湾攻撃:1941年12月7日(日本時間8日)、かねてからアメリカと緊張状態にあった日本は、宣戦布告と同時に、ハワイ真珠湾のアメリカ海軍基地を奇襲。大きな損害を与えた。しかし、大使館のミスで宣戦布告が攻撃開始よりも遅れたため、アメリカ国民はだまし討ちと激怒。時の大統領フランクリン・ルーズベルトは即時参戦を決定し、ここに第二次世界大戦が幕を開けたのである。
ヒトラー:アドルフ・ヒトラー(1889〜1945)。ナチスドイツの指導者にして第三帝国の総帥。第一次世界大戦の敗戦に沈むドイツにおいて、国家社会主義を掲げたナチス党に入党。すぐに党内を掌握し、人種憎悪と民主主義蔑視を喧伝した。1929年の世界大恐慌をきっかけに国民の支持を集めた彼は、1933年に首相に就任。着実に独裁体制を固めた彼は、1938年、ドイツ民族の生存権を主張し、オーストリアに侵攻。その後もポーランド、デンマーク、オランダ、ベルギー、フランスと快進撃を続け、一時はヨーロッパ全土をその支配下に納めた。その一方で、優性人種であるアーリア人こそが世界の支配者になるべきだという選民思想に従い、ユダヤ人を虐殺。強制収容所での犠牲者数は600万人にのぼった。しかし、不可侵条約を破ってのソビエト侵攻が思わぬ苦戦となり、さらにアメリカが参戦したことで形勢は逆転。連合軍の包囲網が迫る1945年、首都ベルリン陥落を目前にして自決した。
一般には20世紀最悪の極悪人というイメージが定着しているが、第二次世界大戦参戦前のアメリカでは、そのカリスマ性、国粋主義的思想に共鳴する者も決して少なくなく、1938年には『タイム』誌の今年の顔に選ばれている。
<P71>
ミステリーマン:スーパーヒーローという言葉が定着する以前の1940年代は、コミックスのヒーローをこう呼んでいた。
<P72>
写真のコメディアンがはおっているのは、米海兵隊の迷彩服。日本軍から奪った陸軍の戦闘帽と日章旗を身に付け、記念撮影に臨んでいる。胸のベルトに煙草がはさんであるが、当時の彼はまだ18歳である。
真珠湾攻撃:1941年12月7日(日本時間8日)、かねてからアメリカと緊張状態にあった日本は、宣戦布告と同時に、ハワイ真珠湾のアメリカ海軍基地を奇襲。大きな損害を与えた。しかし、大使館のミスで宣戦布告が攻撃開始よりも遅れたため、アメリカ国民はだまし討ちと激怒。時の大統領フランクリン・ルーズベルトは即時参戦を決定し、ここに第二次世界大戦が幕を開けたのである。
ヒトラー:アドルフ・ヒトラー(1889〜1945)。ナチスドイツの指導者にして第三帝国の総帥。第一次世界大戦の敗戦に沈むドイツにおいて、国家社会主義を掲げたナチス党に入党。すぐに党内を掌握し、人種憎悪と民主主義蔑視を喧伝した。1929年の世界大恐慌をきっかけに国民の支持を集めた彼は、1933年に首相に就任。着実に独裁体制を固めた彼は、1938年、ドイツ民族の生存権を主張し、オーストリアに侵攻。その後もポーランド、デンマーク、オランダ、ベルギー、フランスと快進撃を続け、一時はヨーロッパ全土をその支配下に納めた。その一方で、優性人種であるアーリア人こそが世界の支配者になるべきだという選民思想に従い、ユダヤ人を虐殺。強制収容所での犠牲者数は600万人にのぼった。しかし、不可侵条約を破ってのソビエト侵攻が思わぬ苦戦となり、さらにアメリカが参戦したことで形勢は逆転。連合軍の包囲網が迫る1945年、首都ベルリン陥落を目前にして自決した。
一般には20世紀最悪の極悪人というイメージが定着しているが、第二次世界大戦参戦前のアメリカでは、そのカリスマ性、国粋主義的思想に共鳴する者も決して少なくなく、1938年には『タイム』誌の今年の顔に選ばれている。
<P71>
ミステリーマン:スーパーヒーローという言葉が定着する以前の1940年代は、コミックスのヒーローをこう呼んでいた。
<P72>
写真のコメディアンがはおっているのは、米海兵隊の迷彩服。日本軍から奪った陸軍の戦闘帽と日章旗を身に付け、記念撮影に臨んでいる。胸のベルトに煙草がはさんであるが、当時の彼はまだ18歳である。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.19.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(5) CHAPTER 2 [P49~P68]
<P49>
PANEL3-4
1985年のヴェイトのアップが、1966年のオジマンディアスにオーバーラップする。
PANEL5
クライムバスターズの第一回例会が行われたのは、1966年4月のこと。
フランス、NATOからの脱退を表明:現実では、フランスがNATOから脱退したのは、1966年7月1日である。North Atlantic Treaty Organization(北大西洋条約機構)は、ソ連を中心とする東側陣営に対抗すべく、アメリカ、ヨーロッパ諸国が結成した軍事同盟で、1949年に創設された。軍事同盟とはいえ、実質的な防衛の要はアメリカが各国に配備した核ミサイルであり、アメリカへの依存度は極めて高かった。この状況を由としないフランスが独自路線を歩むとしてNATOを脱退したものの、冷戦終結まで東西の軍事衝突を回避し続けることには成功。現在では、域外地域の危機管理にその目的を移している。なお、フランスはNATO創立60周年の2009年4月の復帰を表明している。
心臓移植患者、経過は良好:実際の世界初の心臓移植手術は、1967年12月13日に南アフリカのケープタウンで行われた(患者は18日後に死亡)。作品世界では、DR.マンハッタンの関与により、1年以上早まったものと思われる。
部屋に置かれたコンピュータは、1964年にIBMが発表し大流行した世界初の汎用コンピュータ、システム/360と思われる。当時のIBMは、コンピュータを販売ではなくレンタルしており、システム/360のレンタル料金は、月額2700ドルから、となっていた。現在の価値に直すと1万ドル以上はすると思われるが、素顔のキャプテン・メトロポリスはよほどの資産家だったのだろう。
<P50>
PANEL1
時計に注目。例会が開かれたのは確かに夜だったが(P293 PANEL3参照)、それにしても遅い時間である。やはり破滅時計の象徴だろう。
PANEL2
キャプテン・メトロポリスが指摘している社会腐敗には、麻薬や暴動に加えて、黒人問題、反戦デモも含まれており、彼の政治姿勢が伺える。
PANEL3
コメディアンが左胸にピースマーク(スマイリー)を付けていない。理由は、クライムバスターズの例会が開かれた1966年時点では、まだピースマークが世に出ていなかったためである。
マークの誕生については諸説あるが、『ウォッチメン』出版にあたりDCコミックスは、ピースマークを商標登録しているスマイリーワールド社の許諾を得ている。スマイリーワールド社の主張によれば、ピースマークは1971年に、フランス人の新聞記者フランクリン・ルーフラーニが、"明るい"ニュースの目印として記事に添付したのが始まりだという。
ちなみに日本では、1970年8月に文具メーカー、リリック社が、アメリカで流行中のピースマークを使った文具類を見本市に出品。10月からサンスター文具と共同で商品展開を行い、大ヒットしている。リリック社は、アメリカで自然発生的に誕生したもので、作者は不詳としているが…。
いずれにせよ、1971年のベトナムでは既に胸にあることから、登場してすぐに取り入れたことになる。
スマイリーワールド社が商標をとっているスマイリー。コミック中に出てくるものとは顔が違う。
<P51>
PANEL7-8
世界の救済を訴えるキャプテン・メトロポリスの姿が、神に救いを求める神父にオーバーラップする。何かを思い詰めたようなヴェイトの表情にも注目。20年経ってもほとんど変わりがないのには驚かされるが、額や目元に若干の衰えが感じられる。
<P52>
PANEL3-4
モーロックの持つ花束が、祝勝の花火にオーバーラップする。
PANEL5
ニクソン大統領、勝利を宣言:作品世界におけるベトナム戦争終結は、1971年のこと。現実では、アメリカは1973年にベトナムから撤退した。
ベトナム戦争:1950年代末より1975年まで続いた、第二次世界大戦以降で最大規模の戦争。そもそもは、フランス植民地からの独立を目指す民族独立運動が発端であり、北ベトナムことベトナム民主共和国を共産主義陣営が、南ベトナムことベトナム共和国をアメリカが支援したことから、東西対立の代理戦争の様相を呈し、泥沼化の一歩を辿る結果となった。中国、北朝鮮と、東南アジア地域の共産主義圏拡大を懸念したアメリカは、1955年に北ベトナムに対抗する形で南部に親米政権を樹立させ、1961年より間接的な介入を続けていたが、1965年には20万の大兵力を派遣。直接介入に乗り出した。こうした動きに対し共産主義勢力は、南ベトナム解放民族戦線を組織。ソビエト、中国、北ベトナムの支援を受けた解放民族戦線は、最新兵器を揃えたアメリカ軍をゲリラ戦法で苦しめた。
長引く戦争に、アメリカ国内には反戦ムードが広がり、反戦平和が叫ばれるようになった。さらに、国際世論もアメリカを非難し、政治、経済、社会、あらゆる面で疲弊したアメリカは、1973年のベトナム和平協定の成立により、南ベトナムからの撤兵を決定した。その後も南ベトナム軍は抵抗を続けたが、1975年のホー・チ・ミン作戦により、解放民族戦線が全ベトナムを完全解放。独立と南北統一が実現した。
アメリカにとっては初の敗戦であり、世界の警察官としての威厳の低下は、アメリカ国内において、人種問題、麻薬問題など諸問題を噴出させ、戦後アメリカの一大転換期となった。
<P53>
PANEL1
サイゴン:ゴ・ディン・ジェム新米政権の首都。アメリカ軍総司令部の所在地でもある。
コカ・コーラ、ミラー・ビール、ゴードン・ジンと、実在の飲料、酒造メーカーの看板が見える。
PANEL4
人間の耳のネックレス:数々の残虐行為が行われたベトナム戦争では、殺した相手の一部を切り取る行為が流行したという。そういった行為は太平洋戦争でも行われたが、ベトナム戦争ではそれらの残虐な行いが広く世界に報道された結果、反戦機運が高まり、アメリカの敗北へとつながっていった。
PANEL5
ヘリコプターの前でVサインをしているのは、はるばるアメリカから駆けつけたニクソン大統領。ディックは彼の愛称である。
次の選挙:2度目の当選を目指す1972年の大統領選挙のこと。現実でも当選を果たした。作品世界では、2度目どころか、1976年、1980年、1984年と、実に5選を果たしている。
<P54>
PANEL7
顎から垂れた血がピースマークに落ちて、おなじみのパターンを描いている。ベトナム人女性の死の予告か。
PANEL9
銃の撃鉄を起こしただけで発砲していることから、戦争が終結した後の基地内でも、常に銃を発砲可能な状態にして持ち歩いていたことがわかる。
<P55>
PANEL8-9
死んだ女性を前に思案するDR.マンハッタンの姿が、柩に入ったブレイクの死体を前にした現在の彼にオーバーラップする(花火と花束も)。何を考えているのか。
<P56>
PANEL3-4
ドライバーグの回想の導入部だけ、他の二人とは違って直接的なオーバーラップが使われていない。
PANEL4
反ヒーロー暴動が起きたのは1977年夏。画面左に「宝島」が見えることから、この場所はドライバーグのアパートの近くということになる。
コメディアンがマスクを被るようになったのは、ベトナムで受けた傷を隠すためだろうが(P54 PANEL6参照)、傷とは逆の左目に、傷を思わせるデザインが施されているのが興味深い(あるいはピースマークの血痕の鏡像か?)。いずれにせよ、とてもヒーローのものとは思えない
暴力的、SM的なイメージのデザインである。
コメディアンが乗っているのは、ナイトオウルの飛行艇"アーチー"。ナイトオウルのモデルであるブルービートルが操る飛行艇"バグ"を模したものである。ブルービートルと彼の飛行艇、バグ
<P57>
PANEL2
画面中央の眼鏡の女性が着ているTシャツには"レイプに反対するゲイ女性の会"のシンボルマークに似たシンボルが描かれている(P163 PANEL8参照)。この時期には既に運動が始まっていたのか。
PANEL6
アーチーの機体の染みの形状は、ピースマークの血痕を思わせる。
<P58>
PANEL3
あの誘拐事件:6話で詳細が明かされるブレア・ロッシュ誘拐事件のこと。
PANEL8-9
コメディアンを呆然と見送るナイトオウルの姿が、ブレイクの柩を見送るドライバーグの姿にオーバーラップする。ここまでの3人の回想は、全て同じパターンで締めくくられている。
<P59>
PANEL1
土をかける男性は、襟に階級章のついたシャツや左手の制帽から軍人だとわかる。精悍なその顔は、チャールトンコミックスのスパイヒーロー、サージ・スティールを思わせる。P442のムーアの初期構想からすると、スティールがカメオ出演していても不思議ではないが。
ヴェイトとドライバーグが別れの握手を交わしている。立ち去るモーロックをDR.マンハッタンがいぶかしげに見つめている。DR.マンハッタンを囲む物々しい警備の割には、簡単に参列できていることが奇異にも思える。どこかで見ているであろうロールシャッハを、モーロックと引き合わせるためのヴェイトの差し金とは考えすぎか。
ヴェイトとDR.マンハッタンが別れの握手を交わす。それぞれのシンボルをかたどったカフスボタンに注目。ここでもドライバーグとDR.マンハッタンの交流は描かれない。ところで、今や一般人であるドライバーグが政府のエージェントであったブレイクの葬儀に参列するとは、引退時にも正体を公表しなかった彼にしては不注意な行為にも思える(実際、警察はこの参列がきっかけで彼の正体をつかんだ P252参照)。
また、誰が彼を招待したのかという疑問も残る。葬儀の前後に握手を交わしていることからヴェイトの招待だと思われるが、ドライバーグが自らの計画の障害にはならないと判断したからこその行為だろうか。
墓地を立ち去るモーロック。右側のフェンスの向こうに、コバックスのプラカードが見える。葬儀の間中、ここに立っていたものと思われる。
<P60>
PANEL1
画面左、小脇にニュー・フロンティズマンを抱えた男性は、髪型にチョビ髭、そして右腕を上げたポーズといい(実際にはタクシーを拾おうとしているだけだが)、ヒトラーそっくりである。ニュー・フロンティアズマンはファシスト御用達ということか。
PANEL5
冷凍食品の空き箱の山から、モーロックのわびしい生活が推察される。コップのティーバッグから、モーロックは紅茶を淹れているのだとわかる。
<PAGE61-63>
部屋が明るくなったり暗くなったりするのは、窓の外に酒場"ラム・ランナー"のネオンがあるため。
なお、ラム・ランナーとは、酒の密輸業者の俗称であり、16世紀のカリブ海で海賊たちが、関税の高い植民地にラム酒を密輸して大儲けした故事に由来する。
<P64>
PANEL4
レアトラル:実在の制癌剤で、1970年代に流行したが、シアン化合物が含まれているとして、80年ごろにはブームは沈静化した。2000年代に入って、インターネットで販売されるようになり、再び問題になっている。
<P65>
PANEL1
エノラ・ゲイとリトル・ボーイズ:エノラ・ゲイは、広島に原爆を投下したB29爆撃機の愛称。リトル・ボーイは、投下されたガンバレル方式原爆の愛称である。
PANEL2
42番街:タイムズスクウェアに通じるニューヨークの繁華街。90年代に浄化されるまで、いかがわしい店が立ち並ぶ危険地帯として悪名を響かせていた。泣く子も黙るロールシャッハに声をかけるとは、この娼婦は彼の顔が見えていないのか。
PANEL4
今じゃもう作ってない:作品世界では製造中止になったようだが、現実では、1985年当時も製造されていた。今では缶のみの製造だとも考えられるが、牛乳は瓶のままである(PAGE60 PANEL7参照)。
まるで相手にしないロールシャッハに中指を立てているが、この侮辱的なポーズも、かつてのDCコミックスでは絶対に描写されることはなかった。
PANEL5
ヘアピン一本で墓地の鍵を開けている。
<P66>
PANEL1
ブレイクの墓の盛り土だけが周囲と比べて新しい。
<P68>
PANEL7
冒頭に登場した女神の像が、ロールシャッハに別れの手を振っているようにも見える。
PANEL8
章末の言葉は、エルビス・コステロのアルバム『グッバイ・クルエル・ワールド』(1984)収録の「ザ・コメディアンズ」より。
PANEL3-4
1985年のヴェイトのアップが、1966年のオジマンディアスにオーバーラップする。
PANEL5
クライムバスターズの第一回例会が行われたのは、1966年4月のこと。
フランス、NATOからの脱退を表明:現実では、フランスがNATOから脱退したのは、1966年7月1日である。North Atlantic Treaty Organization(北大西洋条約機構)は、ソ連を中心とする東側陣営に対抗すべく、アメリカ、ヨーロッパ諸国が結成した軍事同盟で、1949年に創設された。軍事同盟とはいえ、実質的な防衛の要はアメリカが各国に配備した核ミサイルであり、アメリカへの依存度は極めて高かった。この状況を由としないフランスが独自路線を歩むとしてNATOを脱退したものの、冷戦終結まで東西の軍事衝突を回避し続けることには成功。現在では、域外地域の危機管理にその目的を移している。なお、フランスはNATO創立60周年の2009年4月の復帰を表明している。
心臓移植患者、経過は良好:実際の世界初の心臓移植手術は、1967年12月13日に南アフリカのケープタウンで行われた(患者は18日後に死亡)。作品世界では、DR.マンハッタンの関与により、1年以上早まったものと思われる。
部屋に置かれたコンピュータは、1964年にIBMが発表し大流行した世界初の汎用コンピュータ、システム/360と思われる。当時のIBMは、コンピュータを販売ではなくレンタルしており、システム/360のレンタル料金は、月額2700ドルから、となっていた。現在の価値に直すと1万ドル以上はすると思われるが、素顔のキャプテン・メトロポリスはよほどの資産家だったのだろう。
<P50>
PANEL1
時計に注目。例会が開かれたのは確かに夜だったが(P293 PANEL3参照)、それにしても遅い時間である。やはり破滅時計の象徴だろう。
PANEL2
キャプテン・メトロポリスが指摘している社会腐敗には、麻薬や暴動に加えて、黒人問題、反戦デモも含まれており、彼の政治姿勢が伺える。
PANEL3
コメディアンが左胸にピースマーク(スマイリー)を付けていない。理由は、クライムバスターズの例会が開かれた1966年時点では、まだピースマークが世に出ていなかったためである。
マークの誕生については諸説あるが、『ウォッチメン』出版にあたりDCコミックスは、ピースマークを商標登録しているスマイリーワールド社の許諾を得ている。スマイリーワールド社の主張によれば、ピースマークは1971年に、フランス人の新聞記者フランクリン・ルーフラーニが、"明るい"ニュースの目印として記事に添付したのが始まりだという。
ちなみに日本では、1970年8月に文具メーカー、リリック社が、アメリカで流行中のピースマークを使った文具類を見本市に出品。10月からサンスター文具と共同で商品展開を行い、大ヒットしている。リリック社は、アメリカで自然発生的に誕生したもので、作者は不詳としているが…。
いずれにせよ、1971年のベトナムでは既に胸にあることから、登場してすぐに取り入れたことになる。
<P51>
PANEL7-8
世界の救済を訴えるキャプテン・メトロポリスの姿が、神に救いを求める神父にオーバーラップする。何かを思い詰めたようなヴェイトの表情にも注目。20年経ってもほとんど変わりがないのには驚かされるが、額や目元に若干の衰えが感じられる。
<P52>
PANEL3-4
モーロックの持つ花束が、祝勝の花火にオーバーラップする。
PANEL5
ニクソン大統領、勝利を宣言:作品世界におけるベトナム戦争終結は、1971年のこと。現実では、アメリカは1973年にベトナムから撤退した。
ベトナム戦争:1950年代末より1975年まで続いた、第二次世界大戦以降で最大規模の戦争。そもそもは、フランス植民地からの独立を目指す民族独立運動が発端であり、北ベトナムことベトナム民主共和国を共産主義陣営が、南ベトナムことベトナム共和国をアメリカが支援したことから、東西対立の代理戦争の様相を呈し、泥沼化の一歩を辿る結果となった。中国、北朝鮮と、東南アジア地域の共産主義圏拡大を懸念したアメリカは、1955年に北ベトナムに対抗する形で南部に親米政権を樹立させ、1961年より間接的な介入を続けていたが、1965年には20万の大兵力を派遣。直接介入に乗り出した。こうした動きに対し共産主義勢力は、南ベトナム解放民族戦線を組織。ソビエト、中国、北ベトナムの支援を受けた解放民族戦線は、最新兵器を揃えたアメリカ軍をゲリラ戦法で苦しめた。
長引く戦争に、アメリカ国内には反戦ムードが広がり、反戦平和が叫ばれるようになった。さらに、国際世論もアメリカを非難し、政治、経済、社会、あらゆる面で疲弊したアメリカは、1973年のベトナム和平協定の成立により、南ベトナムからの撤兵を決定した。その後も南ベトナム軍は抵抗を続けたが、1975年のホー・チ・ミン作戦により、解放民族戦線が全ベトナムを完全解放。独立と南北統一が実現した。
アメリカにとっては初の敗戦であり、世界の警察官としての威厳の低下は、アメリカ国内において、人種問題、麻薬問題など諸問題を噴出させ、戦後アメリカの一大転換期となった。
<P53>
PANEL1
サイゴン:ゴ・ディン・ジェム新米政権の首都。アメリカ軍総司令部の所在地でもある。
コカ・コーラ、ミラー・ビール、ゴードン・ジンと、実在の飲料、酒造メーカーの看板が見える。
PANEL4
人間の耳のネックレス:数々の残虐行為が行われたベトナム戦争では、殺した相手の一部を切り取る行為が流行したという。そういった行為は太平洋戦争でも行われたが、ベトナム戦争ではそれらの残虐な行いが広く世界に報道された結果、反戦機運が高まり、アメリカの敗北へとつながっていった。
PANEL5
ヘリコプターの前でVサインをしているのは、はるばるアメリカから駆けつけたニクソン大統領。ディックは彼の愛称である。
次の選挙:2度目の当選を目指す1972年の大統領選挙のこと。現実でも当選を果たした。作品世界では、2度目どころか、1976年、1980年、1984年と、実に5選を果たしている。
<P54>
PANEL7
顎から垂れた血がピースマークに落ちて、おなじみのパターンを描いている。ベトナム人女性の死の予告か。
PANEL9
銃の撃鉄を起こしただけで発砲していることから、戦争が終結した後の基地内でも、常に銃を発砲可能な状態にして持ち歩いていたことがわかる。
<P55>
PANEL8-9
死んだ女性を前に思案するDR.マンハッタンの姿が、柩に入ったブレイクの死体を前にした現在の彼にオーバーラップする(花火と花束も)。何を考えているのか。
<P56>
PANEL3-4
ドライバーグの回想の導入部だけ、他の二人とは違って直接的なオーバーラップが使われていない。
PANEL4
反ヒーロー暴動が起きたのは1977年夏。画面左に「宝島」が見えることから、この場所はドライバーグのアパートの近くということになる。
コメディアンがマスクを被るようになったのは、ベトナムで受けた傷を隠すためだろうが(P54 PANEL6参照)、傷とは逆の左目に、傷を思わせるデザインが施されているのが興味深い(あるいはピースマークの血痕の鏡像か?)。いずれにせよ、とてもヒーローのものとは思えない
暴力的、SM的なイメージのデザインである。
コメディアンが乗っているのは、ナイトオウルの飛行艇"アーチー"。ナイトオウルのモデルであるブルービートルが操る飛行艇"バグ"を模したものである。
<P57>
PANEL2
画面中央の眼鏡の女性が着ているTシャツには"レイプに反対するゲイ女性の会"のシンボルマークに似たシンボルが描かれている(P163 PANEL8参照)。この時期には既に運動が始まっていたのか。
PANEL6
アーチーの機体の染みの形状は、ピースマークの血痕を思わせる。
<P58>
PANEL3
あの誘拐事件:6話で詳細が明かされるブレア・ロッシュ誘拐事件のこと。
PANEL8-9
コメディアンを呆然と見送るナイトオウルの姿が、ブレイクの柩を見送るドライバーグの姿にオーバーラップする。ここまでの3人の回想は、全て同じパターンで締めくくられている。
<P59>
PANEL1
土をかける男性は、襟に階級章のついたシャツや左手の制帽から軍人だとわかる。精悍なその顔は、チャールトンコミックスのスパイヒーロー、サージ・スティールを思わせる。P442のムーアの初期構想からすると、スティールがカメオ出演していても不思議ではないが。
ヴェイトとドライバーグが別れの握手を交わしている。立ち去るモーロックをDR.マンハッタンがいぶかしげに見つめている。DR.マンハッタンを囲む物々しい警備の割には、簡単に参列できていることが奇異にも思える。どこかで見ているであろうロールシャッハを、モーロックと引き合わせるためのヴェイトの差し金とは考えすぎか。
ヴェイトとDR.マンハッタンが別れの握手を交わす。それぞれのシンボルをかたどったカフスボタンに注目。ここでもドライバーグとDR.マンハッタンの交流は描かれない。ところで、今や一般人であるドライバーグが政府のエージェントであったブレイクの葬儀に参列するとは、引退時にも正体を公表しなかった彼にしては不注意な行為にも思える(実際、警察はこの参列がきっかけで彼の正体をつかんだ P252参照)。
また、誰が彼を招待したのかという疑問も残る。葬儀の前後に握手を交わしていることからヴェイトの招待だと思われるが、ドライバーグが自らの計画の障害にはならないと判断したからこその行為だろうか。
墓地を立ち去るモーロック。右側のフェンスの向こうに、コバックスのプラカードが見える。葬儀の間中、ここに立っていたものと思われる。
<P60>
PANEL1
画面左、小脇にニュー・フロンティズマンを抱えた男性は、髪型にチョビ髭、そして右腕を上げたポーズといい(実際にはタクシーを拾おうとしているだけだが)、ヒトラーそっくりである。ニュー・フロンティアズマンはファシスト御用達ということか。
PANEL5
冷凍食品の空き箱の山から、モーロックのわびしい生活が推察される。コップのティーバッグから、モーロックは紅茶を淹れているのだとわかる。
<PAGE61-63>
部屋が明るくなったり暗くなったりするのは、窓の外に酒場"ラム・ランナー"のネオンがあるため。
なお、ラム・ランナーとは、酒の密輸業者の俗称であり、16世紀のカリブ海で海賊たちが、関税の高い植民地にラム酒を密輸して大儲けした故事に由来する。
<P64>
PANEL4
レアトラル:実在の制癌剤で、1970年代に流行したが、シアン化合物が含まれているとして、80年ごろにはブームは沈静化した。2000年代に入って、インターネットで販売されるようになり、再び問題になっている。
<P65>
PANEL1
エノラ・ゲイとリトル・ボーイズ:エノラ・ゲイは、広島に原爆を投下したB29爆撃機の愛称。リトル・ボーイは、投下されたガンバレル方式原爆の愛称である。
PANEL2
42番街:タイムズスクウェアに通じるニューヨークの繁華街。90年代に浄化されるまで、いかがわしい店が立ち並ぶ危険地帯として悪名を響かせていた。泣く子も黙るロールシャッハに声をかけるとは、この娼婦は彼の顔が見えていないのか。
PANEL4
今じゃもう作ってない:作品世界では製造中止になったようだが、現実では、1985年当時も製造されていた。今では缶のみの製造だとも考えられるが、牛乳は瓶のままである(PAGE60 PANEL7参照)。
まるで相手にしないロールシャッハに中指を立てているが、この侮辱的なポーズも、かつてのDCコミックスでは絶対に描写されることはなかった。
PANEL5
ヘアピン一本で墓地の鍵を開けている。
<P66>
PANEL1
ブレイクの墓の盛り土だけが周囲と比べて新しい。
<P68>
PANEL7
冒頭に登場した女神の像が、ロールシャッハに別れの手を振っているようにも見える。
PANEL8
章末の言葉は、エルビス・コステロのアルバム『グッバイ・クルエル・ワールド』(1984)収録の「ザ・コメディアンズ」より。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.15.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(4) CHAPTER 2 [P40~P48]
<P40>
女神像の右目に溜まった雨粒は、涙を思わせる。また、形は違うが、ピースマークの血痕にも通じるものがある。
背景のビルに係留された飛行船は、人々の頭上に吊るされた爆弾に見える。
<P41>
PANEL2
真っ赤な花、真っ赤なベストなど、以後、保養所のシーンでは赤系統に偏った彩色が成されていることに注目。赤=血=ブレイクの死の暗示か。
サリー・ジュピターのベッドの上に革新系の雑誌『ノヴァ・エクスプレス』が置かれている。ちょっと意外な組み合わせではある。もう一冊の雑誌の裏表紙の広告は、ヴェイト社の香水ノスタルジア。
PANEL3
DR.マンハッタンを乗せた政府公用車が墓地に到着。入口ではドライバーグとヴェイトが握手している。
ヴェイトに傘を差しかけているのは彼の運転手。二人の様子からドライバーグとヴェイトは旧知の間柄と思われるが、ドライバーグがいつヴェイトに自分の正体を明かしたのかは不明である。少なくとも1977年の引退後であることは間違いないだろうが、過去においても特に近しい描写もなく、DR.マンハッタンには自分からは正体を明かしていないことを考えると(P131 PANEL5参照)、二人の親密さには若干の違和感を感じなくもない。
門の前に花束を持ったモーロックが立っている。
PANEL5
DR.マンハッタンが墓地に入る間、警官隊が通行を制限しており、右端の人物は手を振り上げて抗議している。いつものプラカードを掲げたコバックスはおとなしく待っている。DR.マンハッタンは全身をオーラで覆っているため、傘は必要ない。
PANEL7
ブレイクの柩には星条旗がかけられている。これは故人が軍人であったことを示しており、ブレイクの場合は、太平洋戦争、ベトナム戦争への従軍経験を認められたものと思われる。世間的には"外交官"と発表されていた模様(P252 PANEL4参照)。
DR.マンハッタンとヴェイトが握手を交わしている。ドライバーグはローリーとの会食の件でDR.マンハッタンに話がありそうなものだが、二人が会話をしている気配はない。
画面左上では、コートを着た人物が軍隊式の敬礼をしている。
PANEL8
卓上のカレンダーから、葬儀が10月16日に行われたことがわかる。
PANEL9
墓地に入るブレイクの柩を見つめる3人の態度の違いに注目。ヴェイトが敬意を表す中、ドライバーグは眼鏡を拭いており、DR.マンハッタンはあらぬ方向をよそ見している。ちなみに3人はまだ墓地の外にいる。
<P42>
PANEL2
一行が墓地に入る。通行規制が解除され、コバックスが門の前にさしかかる。雨に溶けて流れた絵の具は、流血を思わせる。
PANEL4
門の前では、トランシーバーを持った政府関係者や警官が、煙草を吸いながらヒマをつぶしている。何かにおののくようなコバックスの表情に注目。
PANEL5
サリー・ジュピターの個室の壁には、若き日の写真がところ狭しと飾られている。
PANEL7
ネペンシー・ガーデンズ保養所:カリフォルニアにある高級養老院。ネペンシーとは、古代において、痛みを和らげるために使われた薬草などの総称である。部屋の窓には太陽が丸く映り込んでいる。
PANEL8
3人の並び順が先程と入れ替わっている。
<P43>
PANEL1
納棺を前にしても、DR.マンハッタンは心ここにあらずといった風情。
PANEL2
サリーの化粧台の上の香水は、ヴェイト社のノスタルジア。
<P44>
PANEL3
ティファナ・バイブル:1920年代から60年代にかけて流行したポルノ漫画の総称。モノクロ、8ページというのが一般的な体裁で、旅回りのセールスマンなどが子供にこっそり売りつけていたという。ティファナとは、サンディエゴにほど近いメキシコの都市の名前だが、なぜその名がつけられたのかは、バイブル(聖書)の部分も含めて、もはや定かではない。アンダーグランドコミックスの先駆けではあるが、誰が作ってどういうルートで売りさばいていたかなどの記録はもちろん残っておらず、解明が待たれるところである。内容は、人気マンガのヒロインや映画の人気スターがひたすらセックスするというものがほとんどで、現在の目で見ても過激な描写が多い。『プレイボーイ』など、合法的なヌード雑誌の登場で衰退・消滅したとされる。
ブロンディ:1930年に連載が始まった、チック・ヤング作の新聞マンガ。ダグウッドとブロンディのバムステッド夫妻のゆかいな家庭生活を描き、戦後の日本でも大人気を博した。
メイ・ウェスト:1893~1980。1930年代から40年代にかけて人気を博した元祖セクシー女優。際どい物言いや衣装で物議を醸したが、その素顔は、自ら台本を書き、セックスシンボルのイメージを演出した、生まれながらのエンターテイナーであったという。
<P45>
PANEL1
卓上カレンダーの日付から、この写真が撮られたのは、1940年10月12日あるいは22日のこととわかる。
ミニッツメン記念写真(映画版より)
プルトニウムは、核兵器の原料となる放射性元素で、原子炉内でウランから生成される。核分裂の容易さから、核兵器に最適の核分裂物質とされ、極めて高い発癌性を持つ。なお、実際にプルトニウムが初めて合成されたのは、1941年2月23日、カリフォルニア大学バークレー校でのことであるが、戦時下の出来事であり、一般には秘匿されたという。この研究は、原爆開発計画「マンハッタン計画」に引き継がれ、わずか4年で原子爆弾を生み出すことになる。
PANEL2
HJ:フーデッド・ジャスティス(HOODED JUSTICE)の頭文字。
PANEL3
ヨーロッパで~:1940年10月当時のヨーロッパは、39年9月1日にドイツがポーランドに侵攻して始まった第二次世界大戦の真っ只中にあり、この時点でドイツは、ポーランド、デンマーク、ノルウェー、オランダ、ベルギー、フランスなどを次々と占領し、破竹の勢いを誇っていた。ドイツは8月に、イギリス上陸作戦のための制空権確保を目的とした、対イギリス航空戦、いわゆる"バトル・オブ・ブリテン"を開始するも、イギリス空軍の頑強な抵抗にあい、大きな損害を蒙っていた。
一方、アジアでは1937年以来、日中戦争が続いていたが、そちらには興味がなかった模様。
交戦状態にない:1940年10月当時のアメリカは、1929年の大恐慌の傷が未だ癒えておらず、自国の建て直しが優先だという空気が支配的だった。そのため、時の大統領ルーズベルトは、ナチスドイツに対しては、イギリスへの経済援助、日本に対しては経済制裁で対応し、たが、1941年12月7日(日本時間8日)、日本軍の真珠湾奇襲を機にドイツ、日本、イタリアの枢軸国に対し宣戦布告を行った。
ポーランド人も~:サリーがポーランド系であり、その出自を隠していることへのあてつけ。19世紀後半に大量に渡米したポーランド系移民は、経済難でアメリカを目指した農民が多く、その教育の低さもあって卑下されることが多かった(プロテスタントが主流派を占めるアメリカにおいて、彼らのほとんどがカソリックであったことも、その立場を不利にした)。ポーランド系の女性はブロンド美人が多いとの評判もあるが、ショービジネスの世界では、ポーランド系に特徴的な名字を嫌い、芸名を使うことがほとんどだった(ロシア系なども同様である)。なお、1940年10月当時のポーランドは、1939年9月1日のドイツ侵攻、9月17日のソビエト侵攻により、独ソ両国によって分割占領された状態にあった。翌41年6月には、独ソが戦争状態に入り、激戦の舞台となったポーランドは辛酸を極めることになる。
なお、シルエット自身はユダヤ系であり、ポーランドはユダヤ系人口の高さで知られているが、信仰する宗教の違いは、両者の間に大きな溝を刻んでいたという。シルエットとサリーが打ち解けられなかったのは、互いの血筋にも原因があったと考えるべきだろう。
PANEL5
オウルズ・ネスト:直訳するとフクロウの巣。ナイトオウルの秘密基地(恐らくは単なるガレージ)の名前。
PANEL7
モーロックの太陽鏡:詳細は不明だが、日光を利用した武器だと思われる。
<P46>
PANEL9
キング・モブのゴリラマスク:モブとは暴徒の意味。ゴリラのマスクを被り、たくさんの手下を引き連れた犯罪者だったと思われる。
<P47>
PANEL9
時計に注目。窓の外が暗かったことから時刻は夜だと思われるが(P45 PANEL1参照)、さすがに遅すぎる。破滅時計の象徴と見るべきだろう。
<P48>
PANEL2
シルク・スペクターとお楽しみ中の男のカバンには、"アクメ歯ブラシ"と書いてある。アクメとは、ギリシャ語で"最高"を意味しており、コミックスやアニメで架空の社名として頻繁に使用されている。特にワーナーブラザースのアニメ『ルーニー・チューンズ』に顕著。
PANEL6
壁にかけられた初代シルク・スペクターの画は、セクシーな美人画で有名なアルベルト・ヴァーガス(1896~1982)から贈られたもの。ペルー出身のヴァーガスは、1933年公開の映画『ノーラ・モランの罪』のポスターで話題を集め、40年代には"ヴァーガ・ガールズ"と呼ばれた『エスクワイヤ』誌のピンナップで一世を風靡した。
アルベルト・ヴァーガス(→Google Image)風に描かれた
初代シルク・スペクターのピンナップ(映画版より)。
イラストはコミックアーティストのジェームス・ジーン。
女神像の右目に溜まった雨粒は、涙を思わせる。また、形は違うが、ピースマークの血痕にも通じるものがある。
背景のビルに係留された飛行船は、人々の頭上に吊るされた爆弾に見える。
<P41>
PANEL2
真っ赤な花、真っ赤なベストなど、以後、保養所のシーンでは赤系統に偏った彩色が成されていることに注目。赤=血=ブレイクの死の暗示か。
サリー・ジュピターのベッドの上に革新系の雑誌『ノヴァ・エクスプレス』が置かれている。ちょっと意外な組み合わせではある。もう一冊の雑誌の裏表紙の広告は、ヴェイト社の香水ノスタルジア。
PANEL3
DR.マンハッタンを乗せた政府公用車が墓地に到着。入口ではドライバーグとヴェイトが握手している。
ヴェイトに傘を差しかけているのは彼の運転手。二人の様子からドライバーグとヴェイトは旧知の間柄と思われるが、ドライバーグがいつヴェイトに自分の正体を明かしたのかは不明である。少なくとも1977年の引退後であることは間違いないだろうが、過去においても特に近しい描写もなく、DR.マンハッタンには自分からは正体を明かしていないことを考えると(P131 PANEL5参照)、二人の親密さには若干の違和感を感じなくもない。
門の前に花束を持ったモーロックが立っている。
PANEL5
DR.マンハッタンが墓地に入る間、警官隊が通行を制限しており、右端の人物は手を振り上げて抗議している。いつものプラカードを掲げたコバックスはおとなしく待っている。DR.マンハッタンは全身をオーラで覆っているため、傘は必要ない。
PANEL7
ブレイクの柩には星条旗がかけられている。これは故人が軍人であったことを示しており、ブレイクの場合は、太平洋戦争、ベトナム戦争への従軍経験を認められたものと思われる。世間的には"外交官"と発表されていた模様(P252 PANEL4参照)。
DR.マンハッタンとヴェイトが握手を交わしている。ドライバーグはローリーとの会食の件でDR.マンハッタンに話がありそうなものだが、二人が会話をしている気配はない。
画面左上では、コートを着た人物が軍隊式の敬礼をしている。
PANEL8
卓上のカレンダーから、葬儀が10月16日に行われたことがわかる。
PANEL9
墓地に入るブレイクの柩を見つめる3人の態度の違いに注目。ヴェイトが敬意を表す中、ドライバーグは眼鏡を拭いており、DR.マンハッタンはあらぬ方向をよそ見している。ちなみに3人はまだ墓地の外にいる。
<P42>
PANEL2
一行が墓地に入る。通行規制が解除され、コバックスが門の前にさしかかる。雨に溶けて流れた絵の具は、流血を思わせる。
PANEL4
門の前では、トランシーバーを持った政府関係者や警官が、煙草を吸いながらヒマをつぶしている。何かにおののくようなコバックスの表情に注目。
PANEL5
サリー・ジュピターの個室の壁には、若き日の写真がところ狭しと飾られている。
PANEL7
ネペンシー・ガーデンズ保養所:カリフォルニアにある高級養老院。ネペンシーとは、古代において、痛みを和らげるために使われた薬草などの総称である。部屋の窓には太陽が丸く映り込んでいる。
PANEL8
3人の並び順が先程と入れ替わっている。
<P43>
PANEL1
納棺を前にしても、DR.マンハッタンは心ここにあらずといった風情。
PANEL2
サリーの化粧台の上の香水は、ヴェイト社のノスタルジア。
<P44>
PANEL3
ティファナ・バイブル:1920年代から60年代にかけて流行したポルノ漫画の総称。モノクロ、8ページというのが一般的な体裁で、旅回りのセールスマンなどが子供にこっそり売りつけていたという。ティファナとは、サンディエゴにほど近いメキシコの都市の名前だが、なぜその名がつけられたのかは、バイブル(聖書)の部分も含めて、もはや定かではない。アンダーグランドコミックスの先駆けではあるが、誰が作ってどういうルートで売りさばいていたかなどの記録はもちろん残っておらず、解明が待たれるところである。内容は、人気マンガのヒロインや映画の人気スターがひたすらセックスするというものがほとんどで、現在の目で見ても過激な描写が多い。『プレイボーイ』など、合法的なヌード雑誌の登場で衰退・消滅したとされる。
ブロンディ:1930年に連載が始まった、チック・ヤング作の新聞マンガ。ダグウッドとブロンディのバムステッド夫妻のゆかいな家庭生活を描き、戦後の日本でも大人気を博した。
メイ・ウェスト:1893~1980。1930年代から40年代にかけて人気を博した元祖セクシー女優。際どい物言いや衣装で物議を醸したが、その素顔は、自ら台本を書き、セックスシンボルのイメージを演出した、生まれながらのエンターテイナーであったという。
<P45>
PANEL1
卓上カレンダーの日付から、この写真が撮られたのは、1940年10月12日あるいは22日のこととわかる。
プルトニウムは、核兵器の原料となる放射性元素で、原子炉内でウランから生成される。核分裂の容易さから、核兵器に最適の核分裂物質とされ、極めて高い発癌性を持つ。なお、実際にプルトニウムが初めて合成されたのは、1941年2月23日、カリフォルニア大学バークレー校でのことであるが、戦時下の出来事であり、一般には秘匿されたという。この研究は、原爆開発計画「マンハッタン計画」に引き継がれ、わずか4年で原子爆弾を生み出すことになる。
PANEL2
HJ:フーデッド・ジャスティス(HOODED JUSTICE)の頭文字。
PANEL3
ヨーロッパで~:1940年10月当時のヨーロッパは、39年9月1日にドイツがポーランドに侵攻して始まった第二次世界大戦の真っ只中にあり、この時点でドイツは、ポーランド、デンマーク、ノルウェー、オランダ、ベルギー、フランスなどを次々と占領し、破竹の勢いを誇っていた。ドイツは8月に、イギリス上陸作戦のための制空権確保を目的とした、対イギリス航空戦、いわゆる"バトル・オブ・ブリテン"を開始するも、イギリス空軍の頑強な抵抗にあい、大きな損害を蒙っていた。
一方、アジアでは1937年以来、日中戦争が続いていたが、そちらには興味がなかった模様。
交戦状態にない:1940年10月当時のアメリカは、1929年の大恐慌の傷が未だ癒えておらず、自国の建て直しが優先だという空気が支配的だった。そのため、時の大統領ルーズベルトは、ナチスドイツに対しては、イギリスへの経済援助、日本に対しては経済制裁で対応し、たが、1941年12月7日(日本時間8日)、日本軍の真珠湾奇襲を機にドイツ、日本、イタリアの枢軸国に対し宣戦布告を行った。
ポーランド人も~:サリーがポーランド系であり、その出自を隠していることへのあてつけ。19世紀後半に大量に渡米したポーランド系移民は、経済難でアメリカを目指した農民が多く、その教育の低さもあって卑下されることが多かった(プロテスタントが主流派を占めるアメリカにおいて、彼らのほとんどがカソリックであったことも、その立場を不利にした)。ポーランド系の女性はブロンド美人が多いとの評判もあるが、ショービジネスの世界では、ポーランド系に特徴的な名字を嫌い、芸名を使うことがほとんどだった(ロシア系なども同様である)。なお、1940年10月当時のポーランドは、1939年9月1日のドイツ侵攻、9月17日のソビエト侵攻により、独ソ両国によって分割占領された状態にあった。翌41年6月には、独ソが戦争状態に入り、激戦の舞台となったポーランドは辛酸を極めることになる。
なお、シルエット自身はユダヤ系であり、ポーランドはユダヤ系人口の高さで知られているが、信仰する宗教の違いは、両者の間に大きな溝を刻んでいたという。シルエットとサリーが打ち解けられなかったのは、互いの血筋にも原因があったと考えるべきだろう。
PANEL5
オウルズ・ネスト:直訳するとフクロウの巣。ナイトオウルの秘密基地(恐らくは単なるガレージ)の名前。
PANEL7
モーロックの太陽鏡:詳細は不明だが、日光を利用した武器だと思われる。
<P46>
PANEL9
キング・モブのゴリラマスク:モブとは暴徒の意味。ゴリラのマスクを被り、たくさんの手下を引き連れた犯罪者だったと思われる。
<P47>
PANEL9
時計に注目。窓の外が暗かったことから時刻は夜だと思われるが(P45 PANEL1参照)、さすがに遅すぎる。破滅時計の象徴と見るべきだろう。
<P48>
PANEL2
シルク・スペクターとお楽しみ中の男のカバンには、"アクメ歯ブラシ"と書いてある。アクメとは、ギリシャ語で"最高"を意味しており、コミックスやアニメで架空の社名として頻繁に使用されている。特にワーナーブラザースのアニメ『ルーニー・チューンズ』に顕著。
PANEL6
壁にかけられた初代シルク・スペクターの画は、セクシーな美人画で有名なアルベルト・ヴァーガス(1896~1982)から贈られたもの。ペルー出身のヴァーガスは、1933年公開の映画『ノーラ・モランの罪』のポスターで話題を集め、40年代には"ヴァーガ・ガールズ"と呼ばれた『エスクワイヤ』誌のピンナップで一世を風靡した。
初代シルク・スペクターのピンナップ(映画版より)。
イラストはコミックアーティストのジェームス・ジーン。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
「黒の船」DVD 予告動画
原作では物語の重要なキーとなる架空コミック「黒の船」が、アニメ(OVA)になって発売されました。
その予告編は以下です。声の出演はジェラルド・バトラー。
このDVDの日本での発売は不明です。ちなみにこのDVDには、ホリス・メイソン「仮面の下で」をベースにしたモキュメンタリーも収録されているそうです。
アニメプレビューとメイキング、インタビューで構成されたビデオジャーナルです。
その予告編は以下です。声の出演はジェラルド・バトラー。
このDVDの日本での発売は不明です。ちなみにこのDVDには、ホリス・メイソン「仮面の下で」をベースにしたモキュメンタリーも収録されているそうです。
アニメプレビューとメイキング、インタビューで構成されたビデオジャーナルです。
ラベル:
予告編・メイキング動画
3.11.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(3) CHAPTER 1 [P33~P38]
<P33>
以降、12話を除く各話の巻末に付くテキストページは、実は当初の構想にあったものではないという。
そもそも『ウォッチメン』は、コミック部分が32ページ、表紙周りが4ページという、標準的な構成となっているが、通常のコミックだと、32ページ中、8~10ページ程が、広告や読者ページに使われる。『ウォッチメン』も当初は広告や読者ページの挿入を考えていたというが、思うように広告が集まらなかったこと、読者ページを設けた場合、当然ながら終盤の号への投稿を掲載することができないなど、様々な問題が発生したため、テキストページを設けることになったという。
既に作業が3、4号まで進んでの変更だったというが、ムーア自身は「広告も読者ページもないなんて、普通のコミックスらしくなくていいじゃないか」と、大乗り気だったらしい。
ちなみに、1983年に発売されたフランク・ミラーの『ローニン』では、DCの歴史上初めて、作者の意図として広告、読者ページが省かれていたが、そのこともムーアの頭にあったのかもしれない。
ワルキューレの騎行:歌劇王ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』4部作のうち2作目『ワルキューレ』より、第3幕の序奏、8人のワルキューレが岩山に集うシーンで演奏される。
<P34>
コニーアイランド:ニューヨーク東部ブルックリンの南端にあるリゾート地。
<P37>
ドク・サベッジ:パルプ雑誌を代表するヒーロー。1933年に『ドク・サベッジ・マガジン』創刊号で初登場した。本名クラーク・サベッジJr。超人的頭脳と体力を駆使し、5人の仲間と共に大冒険を繰り広げる。その褐色の肌から、ブロンズの男の異名を持つ。スーパーマンに大きな影響を与えた。
ドク・サベッジ
シャドウ:同じくパルプ雑誌のヒーロー。1930年にラジオ番組『デテクティブ・ストーリー・アワー』で初登場し、翌年、パルプ雑誌化された。本名ケント・アラード。45口径オートマチックと東洋の秘術を武器に、犯罪者の肝を凍らせる高笑いとともに冷徹な裁きを下す影の男。
シャドウ
ラモント・クランストン:シャドウの正体であるケント・アラードが使用している偽名。
アクションコミックス:1938年6月に、ナショナル社(後のDCコミックス)が創刊したコミックス。超人スーパーマン、魔法使いザターラ、探偵テックス・トンプソンなどの作品が掲載されていたが、世界初のスーパーヒーローであるスーパーマンが大人気となり、現在まで続く長寿作品となった。
(左)スーパーマンがメジャーデビューしたアクションコミックス#1(右)魔法使いザターラが表紙を飾ったアクションコミックス#14
<P38>
スーパーマン:アメリカを代表するスーパーヒーロー。本名クラーク・ケント。惑星クリプトン最後の生き残りで、飛行能力、怪力など、数々のスーパーパワーを振るい、正義と真実とアメリカンウェイを守るために戦う。普段は、デイリー・プラネット新聞の記者として働いている。世界初のスーパーヒーローであり、その後に続く幾千のヒーローの父ともいうべき存在である。
マーゴ・レーン:シャドウことラモント・クランストンのガールフレンドで、彼がシャドウではないかと疑っている。後にシャドウの協力者の一人となる。
クラーク・ケント:スーパーマンの正体。クラークの名は、ドク・サベッジとシャドウの本名を組み合わせたものである。
ロイス:フルネームはロイス・レーン。デイリー・プラネット新聞社に勤める女性記者。クラークの憧れの人だが、彼女はスーパーマンに夢中である。ロイスの名は、スーパーマンの原作者であるジェリー・シーゲルとジョー・シュースターの高校時代のマドンナの名前と、シャドウの恋人マーゴ・レーンの名字を組み合わせたもの。
以降、12話を除く各話の巻末に付くテキストページは、実は当初の構想にあったものではないという。
そもそも『ウォッチメン』は、コミック部分が32ページ、表紙周りが4ページという、標準的な構成となっているが、通常のコミックだと、32ページ中、8~10ページ程が、広告や読者ページに使われる。『ウォッチメン』も当初は広告や読者ページの挿入を考えていたというが、思うように広告が集まらなかったこと、読者ページを設けた場合、当然ながら終盤の号への投稿を掲載することができないなど、様々な問題が発生したため、テキストページを設けることになったという。
既に作業が3、4号まで進んでの変更だったというが、ムーア自身は「広告も読者ページもないなんて、普通のコミックスらしくなくていいじゃないか」と、大乗り気だったらしい。
ちなみに、1983年に発売されたフランク・ミラーの『ローニン』では、DCの歴史上初めて、作者の意図として広告、読者ページが省かれていたが、そのこともムーアの頭にあったのかもしれない。
ワルキューレの騎行:歌劇王ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』4部作のうち2作目『ワルキューレ』より、第3幕の序奏、8人のワルキューレが岩山に集うシーンで演奏される。
<P34>
コニーアイランド:ニューヨーク東部ブルックリンの南端にあるリゾート地。
<P37>
ドク・サベッジ:パルプ雑誌を代表するヒーロー。1933年に『ドク・サベッジ・マガジン』創刊号で初登場した。本名クラーク・サベッジJr。超人的頭脳と体力を駆使し、5人の仲間と共に大冒険を繰り広げる。その褐色の肌から、ブロンズの男の異名を持つ。スーパーマンに大きな影響を与えた。
シャドウ:同じくパルプ雑誌のヒーロー。1930年にラジオ番組『デテクティブ・ストーリー・アワー』で初登場し、翌年、パルプ雑誌化された。本名ケント・アラード。45口径オートマチックと東洋の秘術を武器に、犯罪者の肝を凍らせる高笑いとともに冷徹な裁きを下す影の男。
ラモント・クランストン:シャドウの正体であるケント・アラードが使用している偽名。
アクションコミックス:1938年6月に、ナショナル社(後のDCコミックス)が創刊したコミックス。超人スーパーマン、魔法使いザターラ、探偵テックス・トンプソンなどの作品が掲載されていたが、世界初のスーパーヒーローであるスーパーマンが大人気となり、現在まで続く長寿作品となった。
<P38>
スーパーマン:アメリカを代表するスーパーヒーロー。本名クラーク・ケント。惑星クリプトン最後の生き残りで、飛行能力、怪力など、数々のスーパーパワーを振るい、正義と真実とアメリカンウェイを守るために戦う。普段は、デイリー・プラネット新聞の記者として働いている。世界初のスーパーヒーローであり、その後に続く幾千のヒーローの父ともいうべき存在である。
マーゴ・レーン:シャドウことラモント・クランストンのガールフレンドで、彼がシャドウではないかと疑っている。後にシャドウの協力者の一人となる。
クラーク・ケント:スーパーマンの正体。クラークの名は、ドク・サベッジとシャドウの本名を組み合わせたものである。
ロイス:フルネームはロイス・レーン。デイリー・プラネット新聞社に勤める女性記者。クラークの憧れの人だが、彼女はスーパーマンに夢中である。ロイスの名は、スーパーマンの原作者であるジェリー・シーゲルとジョー・シュースターの高校時代のマドンナの名前と、シャドウの恋人マーゴ・レーンの名字を組み合わせたもの。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.08.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(2) CHAPTER 1 [P14~P38]
<P14>
PANEL1
コメディアンが使用していた銃は、イングラムM11短機関銃。非常に小型で速射性に優れており、命中率は低いものの弾幕を張るのに適している。ナイフは米軍の制式銃剣で、ベトナム戦争当時のものと思われる。また、両腰のホルスターには、同じく米軍の制式拳銃であるM1911コルト・ガバメントが挿さっている。
PANEL2
ロールシャッハのマスクのパターンは常に変化しているように見えるが、いくつか共通パターンがある。これは彼が心底驚いた時に現れるパターンで、P166、P196でも同じパターンが現れている。
<P15>
PANEL1
スクリーミング・スカル:初代ナイトオウルの旧敵で、骸骨のマスクを被った犯罪者(P271 PANEL5参照)。チャールトンコミックスのマイナー悪役”ラフィング・スカル"がモデルか。
初代ナイトオウルのデザインは、モデルとされる初代ブルービートルよりも、新聞マンガの代表的ヒーロー、ザ・ファントムを彷彿とさせる。
ザ・ファントムは、スーパーマンよりも早い世界初のコスチュームヒーローで(1936年登場、スーパーマンは1938年)、狼のデビルと白馬のヒーローとともに今なお悪と戦い続けている。初代ナイトオウルの愛犬に"ファントム"の名を冠したのは、ムーアなりの敬意の表し方なのかもしれない(ちなみに、初代ブルービートルには犬の相棒はいなかったが、ガールフレンドの新聞記者ジョーン・メイソンの名は、初代ナイトオウルの本名ホリス・メイソンに受け継がれている)。
ザ・ファントム
PANEL4
『仮面の下で』:初代ナイトオウルが、引退後の1962年に発表した自伝。
『闘士』:フィリップ・ワイリー(1902~1971)が1930年に発表したSF小説。第一次世界大戦を背景に、スーパーパワーを持った主人公ヒューゴ・ダナーの活躍と悲劇を描き、スーパーマンの創造に大きな影響を与えた。1977年にハヤカワ書房より邦訳が出版されている。
机の上の立像は、初代ナイトオウルの引退を記念して贈られた記念品。
奥の暖炉の上に置かれたランタンは、アーティストのデイブ・ギボンズの代表作の『グリーンランタン』にちなんだものか(ギボンズが手掛けたのは2代目のグリーンランタンだったが、初代ナイトオウルの持ち物であることを意識してか、同じく40年代に活躍した初代グリーンランタンのデザインに似せてある)。
初代グリーンランタン
PANEL7
キャプテン・アクシス:第二次世界大戦中、ナチスの手先として暗躍した犯罪者。胸に大きな鉤十字をつけたその姿は、大戦中に実際にコミックスに登場した、キャプテン・マーベルの敵役キャプテン・ナチを彷彿とさせる(P271 PANEL7参照)。
階段の壁や、修理工場のシャッターに落書きされた"ペイル・ホース"とは、作品世界で最も人気のあるロックバンドの名前である。髪の毛を登頂部で結わえた、ボーカルのレッド・デスのチョンマゲ・スタイルは、若者の間で広く流行している。
なお、ペイル・ホースとは"蒼ざめた馬"の意味で、黙示録の四騎士の一人、デス(死)の駆る馬に由来する。
誰が見張りを見張るのか?:70年代後半のヒーロー排斥運動において、自然発生的に広まったスローガン。ヒーローの自警行為の正当性を問うている。ちなみに"見張り=ウォッチメン"とは、彼らヒーローを総称した言い方であり(かなり蔑視的な)、実際にウォッチメンという名のグループが存在したわけではない。
PANEL8
旧型モデルとは、ガソリンで走る車のこと。1985年の作品世界においては、DR.マンハッタンが開発した電気自動車が主流であり、ガソリンエンジンの車は、ごく一部の好事家だけのものとなっているようである。以上の社会情勢と、シャッターに70年代後半のヒーロー排斥運動当時の落書きが残されたままになっていることからも、ホリス・メイソンの自動車修理工場は開店休業の状態にあり、ペンキを塗り直す余裕すらないものと思われる。
<P16>
PANEL1
アフガニスタン問題:現実では、1978年にアフガニスタンに発足した共産主義政権を援助するとして、翌79年にソ連が侵攻を開始。反政府イスラム勢力との間に10年に及ぶ泥沼の戦闘を繰り広げたあげく、89年に完全撤退する結果となった。その際、アメリカはイスラムゲリラを後押ししたが、後に彼らは1991年の湾岸戦争などを通して反米に転じ、今度はアメリカと対峙することとなった。
ソ連の思惑は、中東で高まるイスラム原理主義革命の機運を自国内に飛び火する前に押し止めることにあったが、作品世界においては、DR.マンハッタンの威を借りたアメリカの干渉により、1985年においても、侵攻を決意できずにいる模様である。
手前のカップルは、ストリートギャングのリーダー、ダーフとその恋人(P257参照)。二人が聞いているのは、デトロイト出身のパンクシンガー、イギー・ポップのアルバム『ラスト・フォー・ライフ』(1977)に収録された「ネイバーフッド・スレット」。
画面奥のショールームでは、ビュイックの最新86年型が展示されている。
ドライバーグの前の円柱形の物体は、電気自動車の公衆充電器。
PANEL2
画面上の電気バスに注目(ニューヨークのバスは24時間営業)。角にある"宝島"はコミック専門店。ヴェイト社の香水ノスタルジアの大きな看板が掲げられている。このまま少し歩いたところにドライバーグのアパートがある。
PANEL3
アパートの案内図によれば、7階のうち1階から4階までがダン・ドライバーグの居室となっている。アパート全体が彼の持ち物なのだろう。
PANEL7
作品世界では、カレンダーが月曜日から始まっている。
PANEL8
ロールシャッハが食べているベイクド・ビーンズの缶詰は、ケチャップで有名なハインツ社のもの。58の数字が見えるが、実際のハインツの缶に書かれている数字は"57種類の商品"を示す57。実のところ商品数は57種類を大きく超えているが、創業者のこだわりでずっと"57"という数字が使われている。
ドアの上にデジタル時計に注目。0時28分ということは、メイソンの家から30分以上も歩いて帰宅したことになる。
PANEL9
スプーンの持ち手から、ロールシャッハが左利きであることがわかる。P10のコバックスも右手に腕時計をはめており(PANEL7参照)、左利きであることが示唆されている。
<P17>
PANEL6
ロールシャッハがポケットに入れた砂糖は、スウィート・チャリオット社のもの。なお、同社は作品用に創造された架空の会社である。
<P18>
PANEL4
共産主義政府転覆:冷戦時代、実際にアメリカは各地の共産国転覆を図っており、1973年には、南米チリの社会主義政権を打倒するため、CIAに手引きさせ軍事クーデターを引き起こしている。
<P20>
PANEL4
窓のポスター"84年もディックといっしょ"は、1984年の大統領選挙の時のもの。
PANEL5
議会、核ミサイルの月面配備を承認:作品世界においては、月面の開発が着々と進んでいる模様である。
なお現実では、1967年の宇宙条約により、核兵器の宇宙配備は禁止されている。
店の壁には"べト・ブロンクス"の落書きがある。ブロンクスがかつてのベトナムに等しい危険地帯であるとの意味か?
PANEL6
画面中央のチョンマゲの男の胸ポケットの煙草に注目。従来の煙草もなくなったわけではないらしい。
<P21>
PANEL9
逃げ出した男はヴェイト社製のシャツを着ている。衣類にもヴェイト社が参入している模様。
<P23>
PANEL1
ロゴが目立つヴェイト社のビル。ヴェイト社のロゴは街の随所で見かけることができ、同社の繁栄ぶりが伺える。時計が真夜中前を指しているが、ヴェイトはまだ執務中だった模様。ビルの右下にジオデシック・ドームが見えているが、位置関係などからP12のものとは別のものと思われる。奥に見えているのは、実際のニューヨークのランドマークであるクライスラー・ビルディング。
PANEL2
ヴェイトの社長室はビルの最上階にある(フキダシでも明白だが、1コマ目と2コマ目の窓の形に注目)。開いた窓にロールシャッハのフックがかかっているが、外は雨である。ということは、ヴェイトは雨なのに窓を開けていたのか、あるいは、ロールシャッハのためにわざわざ窓を開けてやったのか……。
PANEL5
ヴェイトはナチを蔑視しているが、金髪、碧眼、長身という彼の姿は、ナチが理想とするアーリア人そのものである。
PANEL6
オジマンディアス、南インド飢餓救済公演:このヴェイトの公演は1985年7月に催されたものだが(P224 PANEL2参照)、インドの飢餓自体は1960年代初頭から続いている。DR.マンハッタンの新技術は農業の分野にも及んでいるはずだが、このことから、アメリカは新技術の海外普及には消極的だと思われる。
<P24>
PANEL1
キーン条例:キーン上院議員の提案により、1977年に制定された条例。国家権力以外の、自警行為を違法行為と定めた。この条例の施行により、ほとんどのヒーローが引退に追い込まれた。
PANEL4
ジュネーブ会議:多国間の軍縮問題を検討する国際機関。合衆国、ソ連を始め、40ヶ国が参加している。
ニューヨーク・ガゼットは、実在の新聞であるが、実際には、ガゼットの名は、ニューヨーク・タイムズが1945年から1966年にかけて使用していた名称であり、1967年以降は、再びタイムスに戻している。作品世界においては、1967年以降も、ガゼットを使用している模様である。
机の上の人形は、ヴェイトが自らの会社で販売している自分のアクションフィギュア。ロールシャッハがいじったフィギュアは奇妙にねじくれており、ヴェイトの後の行いを暗示しているようでもある。
キーボードの形状が現実のものと大きく異なっている。
<P25>
PANEL1
午後8時30分:ヴェイトのビルの時計は真夜中あたりを指していた。P451のムーアの言によれば、時計はとにかく11時54分にしたかったとのことだが……。
ロックフェラー軍事研究所:作品用に創造された架空の研究所。ロックフェラーとは、アメリカ有数の財閥ロックフェラー財団のことと思われる。スーパーマンのシンボルを思わせる紋章に注目。
<P26>
PANEL1
DR.マンハッタンが尻を露出しているが、コミックスコードでは、男性の尻であろうと規制の対象だった。厳密には、尻の割れ目がどこまで見えているかが審査の基準となっていたので、真横から描くなり、影でツブすなりすればOKではあったが、ここまではっきりと描かれたのは恐らく初めてだろう。
<P27>
PANEL1
土曜の朝に聞いた:土曜とは、コメディアンが転落死した10月12日のこと、その日の朝の時点では、警察の捜査が始まったばかりであった。政府の迅速な行動が伺える。
リビア:元はイタリアの植民地で、第二次大戦後は王国として独立したものの、1969年27歳の青年将校カダフィ大尉がクーデターを起こし、イスラム社会主義という独自の国家体制を樹立した。反イスラエルの立場から欧米とは激しく対立しており、70年代から80年代にかけて幾多のテロを支援したとされている。劇中でも、反米の姿勢は同様の模様。
PANEL7
超対称性理論:量子力学粒子の対称性を取り入れた理論。既存の素粒子の対称性粒子の存在を予言しているが、今なお未発見のままである。
グルイーノ因子:超対称性理論によって存在が予想されている素粒子の一つで、既存のボース粒子グルーオンに対応する存在であるとされる。
P30
PANEL1
マディソン・スクエア・ガーデン:1968年に完成したニューヨークを代表するスポーツの殿堂。
クリスタルナハト:ペイル・ホースと共にマディソン・スクエア・ガーデンに出演するバンドの名称。なお、クリスタルナハトとは、ドイツ語で“水晶の夜”の意味で、1938年11月9日の夜に、ナチス党員がドイツ全土のユダヤ人商店、住宅、宗教施設を襲撃した事件に由来する(襲撃で割れた窓ガラスを水晶に例えた)。
PANEL2
売春が行われている模様。
PANEL7
もう4年、行ってみよう!:合衆国大統領の任期は、憲法修正第22条により2期8年と定められているが、作品世界のニクソン大統領は法改正を行い、1968年より実に4期17年も大統領の座にある。現実では、第32代大統領のフランクリン・ルーズベルトが、1933年から4期12年務めた例があるが、当時は2期までというのが慣例となっており、ルーズベルトのケースは有事・戦時下における特例処置と言える。大統領の任期の上限を定めた憲法修正第22条が成立したのは1951年のことで、時の大統領トルーマンには適用されないとされたが、人気の低迷から3期目の出馬を取りやめた経緯がある。なお、このポスターは、1984年の選挙の際のものだと思われるが、両手でVサインを作るのは、彼のお得意のポーズである。辞任してホワイトハウスを去る際も、迎えのヘリコプターに乗り込む直前に高々と掲げてみせた。
ニクソンのポスターの前を横切るロールシャッハ(映画版より)
ニクソン:リチャード・ニクソン(1913~1994)。第37代合衆国大統領。共和党。早くから敏腕で鳴らし、1953年には、40歳の若さでアイゼンハワー政権の副大統領に選ばれた。1960年の選挙で大統領の座を狙うが、若き民主党候補ケネディに敗れる。以後、しばし政治の場から離れるが、1968年の大統領選挙に「法と秩序の回復」を掲げて出馬し当選。奇跡の返り咲きを果たす。
対外的には、ベトナム戦争の早期解決を目指し、北ベトナムとパリ和平協定を締結。また、合衆国大統領としては初めて訪中を果たすなど、東西の緊張緩和、デタントを推進した。国内に向けては、不況の打破と治安回復を政策の柱としたが、保守的な姿勢が災いし、広い支持を集めることはできなかった。1972年、ベトナム戦争が激化する中で再選を果たすが、選挙期間中に発覚した民主党本部盗聴事件、いわゆるウォーターゲート事件への関与を指摘され、1974年、任期半ばにして辞任を表明。合衆国史上、初めて自ら辞任した大統領となった。
辞任というイメージの悪さから、長く過小評価されてきたが、現在では、ベトナム撤兵やデタントなど、外交面での実績が高く評価されるようになっている。
<P31>
PANEL2
スパゲティ・アフリカン:詳細は不明。結構な値段がするらしいが、どんな高級スパゲティなのか?
PANEL4
画面中央の二人の男性の様子から、作品世界においては同性愛は公に認められているものと思われる。また、ウェイターが持っているチキンには足が4本あり、遺伝子操作が一般的な技術となっていることを伺わせる。KT風の衣装の女性もいるが、あくまでファッションであって、富裕層の人間であることは間違いない。
PANEL5
画面左上にジオデシック・ドームが見えるが、先に登場した二つとはやはり別もののようだ。奥はエンパイヤステート・ビルディング。
PAGE32
全体がP7と逆の構成になっている。
PANEL8
章末の言葉は、ボブ・ディランのアルバム『追憶のハイウェイ61』(1965)収録の「廃墟の街」より。
PANEL1
コメディアンが使用していた銃は、イングラムM11短機関銃。非常に小型で速射性に優れており、命中率は低いものの弾幕を張るのに適している。ナイフは米軍の制式銃剣で、ベトナム戦争当時のものと思われる。また、両腰のホルスターには、同じく米軍の制式拳銃であるM1911コルト・ガバメントが挿さっている。
PANEL2
ロールシャッハのマスクのパターンは常に変化しているように見えるが、いくつか共通パターンがある。これは彼が心底驚いた時に現れるパターンで、P166、P196でも同じパターンが現れている。
<P15>
PANEL1
スクリーミング・スカル:初代ナイトオウルの旧敵で、骸骨のマスクを被った犯罪者(P271 PANEL5参照)。チャールトンコミックスのマイナー悪役”ラフィング・スカル"がモデルか。
初代ナイトオウルのデザインは、モデルとされる初代ブルービートルよりも、新聞マンガの代表的ヒーロー、ザ・ファントムを彷彿とさせる。
ザ・ファントムは、スーパーマンよりも早い世界初のコスチュームヒーローで(1936年登場、スーパーマンは1938年)、狼のデビルと白馬のヒーローとともに今なお悪と戦い続けている。初代ナイトオウルの愛犬に"ファントム"の名を冠したのは、ムーアなりの敬意の表し方なのかもしれない(ちなみに、初代ブルービートルには犬の相棒はいなかったが、ガールフレンドの新聞記者ジョーン・メイソンの名は、初代ナイトオウルの本名ホリス・メイソンに受け継がれている)。
PANEL4
『仮面の下で』:初代ナイトオウルが、引退後の1962年に発表した自伝。
『闘士』:フィリップ・ワイリー(1902~1971)が1930年に発表したSF小説。第一次世界大戦を背景に、スーパーパワーを持った主人公ヒューゴ・ダナーの活躍と悲劇を描き、スーパーマンの創造に大きな影響を与えた。1977年にハヤカワ書房より邦訳が出版されている。
机の上の立像は、初代ナイトオウルの引退を記念して贈られた記念品。
奥の暖炉の上に置かれたランタンは、アーティストのデイブ・ギボンズの代表作の『グリーンランタン』にちなんだものか(ギボンズが手掛けたのは2代目のグリーンランタンだったが、初代ナイトオウルの持ち物であることを意識してか、同じく40年代に活躍した初代グリーンランタンのデザインに似せてある)。
PANEL7
キャプテン・アクシス:第二次世界大戦中、ナチスの手先として暗躍した犯罪者。胸に大きな鉤十字をつけたその姿は、大戦中に実際にコミックスに登場した、キャプテン・マーベルの敵役キャプテン・ナチを彷彿とさせる(P271 PANEL7参照)。
階段の壁や、修理工場のシャッターに落書きされた"ペイル・ホース"とは、作品世界で最も人気のあるロックバンドの名前である。髪の毛を登頂部で結わえた、ボーカルのレッド・デスのチョンマゲ・スタイルは、若者の間で広く流行している。
なお、ペイル・ホースとは"蒼ざめた馬"の意味で、黙示録の四騎士の一人、デス(死)の駆る馬に由来する。
誰が見張りを見張るのか?:70年代後半のヒーロー排斥運動において、自然発生的に広まったスローガン。ヒーローの自警行為の正当性を問うている。ちなみに"見張り=ウォッチメン"とは、彼らヒーローを総称した言い方であり(かなり蔑視的な)、実際にウォッチメンという名のグループが存在したわけではない。
PANEL8
旧型モデルとは、ガソリンで走る車のこと。1985年の作品世界においては、DR.マンハッタンが開発した電気自動車が主流であり、ガソリンエンジンの車は、ごく一部の好事家だけのものとなっているようである。以上の社会情勢と、シャッターに70年代後半のヒーロー排斥運動当時の落書きが残されたままになっていることからも、ホリス・メイソンの自動車修理工場は開店休業の状態にあり、ペンキを塗り直す余裕すらないものと思われる。
<P16>
PANEL1
アフガニスタン問題:現実では、1978年にアフガニスタンに発足した共産主義政権を援助するとして、翌79年にソ連が侵攻を開始。反政府イスラム勢力との間に10年に及ぶ泥沼の戦闘を繰り広げたあげく、89年に完全撤退する結果となった。その際、アメリカはイスラムゲリラを後押ししたが、後に彼らは1991年の湾岸戦争などを通して反米に転じ、今度はアメリカと対峙することとなった。
ソ連の思惑は、中東で高まるイスラム原理主義革命の機運を自国内に飛び火する前に押し止めることにあったが、作品世界においては、DR.マンハッタンの威を借りたアメリカの干渉により、1985年においても、侵攻を決意できずにいる模様である。
手前のカップルは、ストリートギャングのリーダー、ダーフとその恋人(P257参照)。二人が聞いているのは、デトロイト出身のパンクシンガー、イギー・ポップのアルバム『ラスト・フォー・ライフ』(1977)に収録された「ネイバーフッド・スレット」。
画面奥のショールームでは、ビュイックの最新86年型が展示されている。
ドライバーグの前の円柱形の物体は、電気自動車の公衆充電器。
PANEL2
画面上の電気バスに注目(ニューヨークのバスは24時間営業)。角にある"宝島"はコミック専門店。ヴェイト社の香水ノスタルジアの大きな看板が掲げられている。このまま少し歩いたところにドライバーグのアパートがある。
PANEL3
アパートの案内図によれば、7階のうち1階から4階までがダン・ドライバーグの居室となっている。アパート全体が彼の持ち物なのだろう。
PANEL7
作品世界では、カレンダーが月曜日から始まっている。
PANEL8
ロールシャッハが食べているベイクド・ビーンズの缶詰は、ケチャップで有名なハインツ社のもの。58の数字が見えるが、実際のハインツの缶に書かれている数字は"57種類の商品"を示す57。実のところ商品数は57種類を大きく超えているが、創業者のこだわりでずっと"57"という数字が使われている。
ドアの上にデジタル時計に注目。0時28分ということは、メイソンの家から30分以上も歩いて帰宅したことになる。
PANEL9
スプーンの持ち手から、ロールシャッハが左利きであることがわかる。P10のコバックスも右手に腕時計をはめており(PANEL7参照)、左利きであることが示唆されている。
<P17>
PANEL6
ロールシャッハがポケットに入れた砂糖は、スウィート・チャリオット社のもの。なお、同社は作品用に創造された架空の会社である。
<P18>
PANEL4
共産主義政府転覆:冷戦時代、実際にアメリカは各地の共産国転覆を図っており、1973年には、南米チリの社会主義政権を打倒するため、CIAに手引きさせ軍事クーデターを引き起こしている。
<P20>
PANEL4
窓のポスター"84年もディックといっしょ"は、1984年の大統領選挙の時のもの。
PANEL5
議会、核ミサイルの月面配備を承認:作品世界においては、月面の開発が着々と進んでいる模様である。
なお現実では、1967年の宇宙条約により、核兵器の宇宙配備は禁止されている。
店の壁には"べト・ブロンクス"の落書きがある。ブロンクスがかつてのベトナムに等しい危険地帯であるとの意味か?
PANEL6
画面中央のチョンマゲの男の胸ポケットの煙草に注目。従来の煙草もなくなったわけではないらしい。
<P21>
PANEL9
逃げ出した男はヴェイト社製のシャツを着ている。衣類にもヴェイト社が参入している模様。
<P23>
PANEL1
ロゴが目立つヴェイト社のビル。ヴェイト社のロゴは街の随所で見かけることができ、同社の繁栄ぶりが伺える。時計が真夜中前を指しているが、ヴェイトはまだ執務中だった模様。ビルの右下にジオデシック・ドームが見えているが、位置関係などからP12のものとは別のものと思われる。奥に見えているのは、実際のニューヨークのランドマークであるクライスラー・ビルディング。
PANEL2
ヴェイトの社長室はビルの最上階にある(フキダシでも明白だが、1コマ目と2コマ目の窓の形に注目)。開いた窓にロールシャッハのフックがかかっているが、外は雨である。ということは、ヴェイトは雨なのに窓を開けていたのか、あるいは、ロールシャッハのためにわざわざ窓を開けてやったのか……。
PANEL5
ヴェイトはナチを蔑視しているが、金髪、碧眼、長身という彼の姿は、ナチが理想とするアーリア人そのものである。
PANEL6
オジマンディアス、南インド飢餓救済公演:このヴェイトの公演は1985年7月に催されたものだが(P224 PANEL2参照)、インドの飢餓自体は1960年代初頭から続いている。DR.マンハッタンの新技術は農業の分野にも及んでいるはずだが、このことから、アメリカは新技術の海外普及には消極的だと思われる。
<P24>
PANEL1
キーン条例:キーン上院議員の提案により、1977年に制定された条例。国家権力以外の、自警行為を違法行為と定めた。この条例の施行により、ほとんどのヒーローが引退に追い込まれた。
PANEL4
ジュネーブ会議:多国間の軍縮問題を検討する国際機関。合衆国、ソ連を始め、40ヶ国が参加している。
ニューヨーク・ガゼットは、実在の新聞であるが、実際には、ガゼットの名は、ニューヨーク・タイムズが1945年から1966年にかけて使用していた名称であり、1967年以降は、再びタイムスに戻している。作品世界においては、1967年以降も、ガゼットを使用している模様である。
机の上の人形は、ヴェイトが自らの会社で販売している自分のアクションフィギュア。ロールシャッハがいじったフィギュアは奇妙にねじくれており、ヴェイトの後の行いを暗示しているようでもある。
キーボードの形状が現実のものと大きく異なっている。
<P25>
PANEL1
午後8時30分:ヴェイトのビルの時計は真夜中あたりを指していた。P451のムーアの言によれば、時計はとにかく11時54分にしたかったとのことだが……。
ロックフェラー軍事研究所:作品用に創造された架空の研究所。ロックフェラーとは、アメリカ有数の財閥ロックフェラー財団のことと思われる。スーパーマンのシンボルを思わせる紋章に注目。
<P26>
PANEL1
DR.マンハッタンが尻を露出しているが、コミックスコードでは、男性の尻であろうと規制の対象だった。厳密には、尻の割れ目がどこまで見えているかが審査の基準となっていたので、真横から描くなり、影でツブすなりすればOKではあったが、ここまではっきりと描かれたのは恐らく初めてだろう。
<P27>
PANEL1
土曜の朝に聞いた:土曜とは、コメディアンが転落死した10月12日のこと、その日の朝の時点では、警察の捜査が始まったばかりであった。政府の迅速な行動が伺える。
リビア:元はイタリアの植民地で、第二次大戦後は王国として独立したものの、1969年27歳の青年将校カダフィ大尉がクーデターを起こし、イスラム社会主義という独自の国家体制を樹立した。反イスラエルの立場から欧米とは激しく対立しており、70年代から80年代にかけて幾多のテロを支援したとされている。劇中でも、反米の姿勢は同様の模様。
PANEL7
超対称性理論:量子力学粒子の対称性を取り入れた理論。既存の素粒子の対称性粒子の存在を予言しているが、今なお未発見のままである。
グルイーノ因子:超対称性理論によって存在が予想されている素粒子の一つで、既存のボース粒子グルーオンに対応する存在であるとされる。
P30
PANEL1
マディソン・スクエア・ガーデン:1968年に完成したニューヨークを代表するスポーツの殿堂。
クリスタルナハト:ペイル・ホースと共にマディソン・スクエア・ガーデンに出演するバンドの名称。なお、クリスタルナハトとは、ドイツ語で“水晶の夜”の意味で、1938年11月9日の夜に、ナチス党員がドイツ全土のユダヤ人商店、住宅、宗教施設を襲撃した事件に由来する(襲撃で割れた窓ガラスを水晶に例えた)。
PANEL2
売春が行われている模様。
PANEL7
もう4年、行ってみよう!:合衆国大統領の任期は、憲法修正第22条により2期8年と定められているが、作品世界のニクソン大統領は法改正を行い、1968年より実に4期17年も大統領の座にある。現実では、第32代大統領のフランクリン・ルーズベルトが、1933年から4期12年務めた例があるが、当時は2期までというのが慣例となっており、ルーズベルトのケースは有事・戦時下における特例処置と言える。大統領の任期の上限を定めた憲法修正第22条が成立したのは1951年のことで、時の大統領トルーマンには適用されないとされたが、人気の低迷から3期目の出馬を取りやめた経緯がある。なお、このポスターは、1984年の選挙の際のものだと思われるが、両手でVサインを作るのは、彼のお得意のポーズである。辞任してホワイトハウスを去る際も、迎えのヘリコプターに乗り込む直前に高々と掲げてみせた。
ニクソン:リチャード・ニクソン(1913~1994)。第37代合衆国大統領。共和党。早くから敏腕で鳴らし、1953年には、40歳の若さでアイゼンハワー政権の副大統領に選ばれた。1960年の選挙で大統領の座を狙うが、若き民主党候補ケネディに敗れる。以後、しばし政治の場から離れるが、1968年の大統領選挙に「法と秩序の回復」を掲げて出馬し当選。奇跡の返り咲きを果たす。
対外的には、ベトナム戦争の早期解決を目指し、北ベトナムとパリ和平協定を締結。また、合衆国大統領としては初めて訪中を果たすなど、東西の緊張緩和、デタントを推進した。国内に向けては、不況の打破と治安回復を政策の柱としたが、保守的な姿勢が災いし、広い支持を集めることはできなかった。1972年、ベトナム戦争が激化する中で再選を果たすが、選挙期間中に発覚した民主党本部盗聴事件、いわゆるウォーターゲート事件への関与を指摘され、1974年、任期半ばにして辞任を表明。合衆国史上、初めて自ら辞任した大統領となった。
辞任というイメージの悪さから、長く過小評価されてきたが、現在では、ベトナム撤兵やデタントなど、外交面での実績が高く評価されるようになっている。
<P31>
PANEL2
スパゲティ・アフリカン:詳細は不明。結構な値段がするらしいが、どんな高級スパゲティなのか?
PANEL4
画面中央の二人の男性の様子から、作品世界においては同性愛は公に認められているものと思われる。また、ウェイターが持っているチキンには足が4本あり、遺伝子操作が一般的な技術となっていることを伺わせる。KT風の衣装の女性もいるが、あくまでファッションであって、富裕層の人間であることは間違いない。
PANEL5
画面左上にジオデシック・ドームが見えるが、先に登場した二つとはやはり別もののようだ。奥はエンパイヤステート・ビルディング。
PAGE32
全体がP7と逆の構成になっている。
PANEL8
章末の言葉は、ボブ・ディランのアルバム『追憶のハイウェイ61』(1965)収録の「廃墟の街」より。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.05.2009
「ウォッチメン」原作コミック解説(1) CHAPTER 1 [P1~P12]
<P6>
『ウォッチメン』は、1986年から87年にかけて12冊のマクシシリーズとして発売され、各話の扉にはその際の各号の表紙が流用されている(各話の最後の時計が大写しになっているページが、各号の裏表紙である)。
それぞれの表紙は、本編1ページ目の1コマ目につながるようになっており、その意味では表紙が実質的な1ページ目だとも言える。このような構成は当時としては珍しいものであり、『ウォッチメン』の革新性を示す要素の一つともなっていた。
ちなみにマクシシリーズとは、連載回数を限定したミニシリーズ(TVドラマから発生した概念で、無期限連載を基本とするレギュラーシリーズとの差別化の意味で、こう呼ばれるようになった)の一種で、DCコミックスは、本作のような12話構成など、連載回数が長いミニシリーズを特にこう呼んだ。
原書Watchmen #1 表紙
扉に描かれている時計は、アメリカの科学誌『原子力科学者会報』の表紙に描かれた時計、通称ドームズデイ・クロック(破滅時計あるいは世界終末時計)を模したもので、核戦争勃発の可能性を時刻の形で表している(0時が核戦争勃発の時刻である)。破滅時計は、各号の表紙とコミックスの最後のページに描かれ、1号で11時48分からスタートし、最終話最終ページの0時に向かって1分刻みに進んでいく。
実際の『原子力~』誌の時計は毎年の新年号の表紙に掲載され、その時々の世界情勢により随時変更される。ちなみに、過去、もっとも針が0時に近づいたのは、米ソが水爆実験に成功した1953年で、2分前まで針が進んだ。また1981年には、米ソの軍拡競争を受けて7分前から4分前となり、1984年には、軍拡競争の激化から3分前となっていた。『ウォッチメン』が書かれた1980年代前半は、50年代以来の逼迫した状況にあったのである。
ドゥームズデイ・クロック(映画版より)
ピースマークについた血痕は、平和の象徴であるピースマークが血塗られているという、本作の根底に流れるシニカルな感覚を象徴しているが、血痕の角度は、破滅時計の分針を連想させる。このパターンは、この後、劇中で幾度も繰り返されることになる。パターンの繰り返しという手法は、ムーアが尊敬する作家ウィリアム・S・バロウズが、唯一手掛けたコミックス『アンスピーカブル・Mr.ハート』で見せた手法であるといい、ムーアのバロウズへの傾倒ぶりが伺える。
<P7>
PANEL4
トルーマン:ハリー・S・トルーマン(1884~1972)。第33代合衆国大統領。民主党所属。上院議員時代、軍事費の不正使用を追及して名声を獲得した後、1944年の大統領選挙で時のフランクリン・ルーズベルト大統領に請われて副大統領の座に就いた(ちなみにルーズベルトは4選目)。
明くる45年4月、フランクリン・ルーズベルト大統領の死去に伴い、大統領に昇格。広島、長崎への原爆投下を決行し、第二次世界大戦を終結させた。原爆投下決定の裏には、米軍の戦傷者を減らし、戦争の早期終結を図るという名目の裏に、戦後の対ソビエト戦略の一環という目的があったとされ、事実、戦後は共産主義封じ込め政策トルーマン・ドクトリンを軸に冷戦外交を展開した。また、戦争で疲弊した欧州に対してはマーシャルプランを持って復興を援助。世界のリーダーとしての地位を確立した。国内においては、陸海空軍を統合する統合参謀本部、総合的情報収集を目的とする中央情報局(CIA)、国家安全保障担当閣僚を集めた国家安全保障会議の設立と、大統領権限の拡大に邁進し、行政の中央集権化を進めた。
1948年に再選を果たしたトルーマンは、1950年に勃発した朝鮮戦争に介入するも、中国の参画により戦争は長期化。人気の低下を悟った彼は、1953年の任期満了をもって、政治の表舞台から退いた。
PANEL5
画面左側のトラックは、ピラミッド宅配社のもの。P450のムーアの脚本によれば、トラックは画面上から下に向かうように指示されているが、それでは左側通行になってしまい、右側通行のアメリカの交通法規とは逆になってしまう。
実際の作品では、右側通行に修正されているが、日本と並ぶ数少ない左側通行採用国であるイギリス在住のムーアならではのミスだろう。
PANEL7
路上の車が、空気力学を意識したような曲線形をしているのに注目。現在の目から見ると、それほど奇異には感じられないが、本作の発表当時はまだまだ、車と言えば四角のイメージが主流だった。
これら、現実との"ちょっとした"違いは、作品世界が"もう一つ"の1985年であることを読者に直感させるための仕掛けであり、以後、劇中のあちこちに様々な形で顔を出してくる。
<P8>
PANEL1
ファイン刑事が吸っている煙草は、おなじみの紙巻煙草であるが、作品世界においては、煙草はガラス・パイプに入れて炙るスタイルが一般的であり(恐らくはDR.マンハッタンの発明によるもので、健康への影響も少ないものと思われる)、旧来の紙巻煙草は少数派になっているものと思われる。
手前の制服警官の耳に注目。イヤホン型の通信機か。
作品世界の革靴は、靴紐ではなく、くるぶしのゴム(?)で締めるのが一般的なようだ。
PANEL6
そのいびつな巻き方から、ファイン刑事の吸っている煙草は手巻きだと推測される。
PANEL8
副大統領のフォード:ジェラルド・フォード(1913~2006)。第38代合衆国大統領。共和党所属。ドナルド・ラムズフェルドらとともに下院議員として頭角を現した彼は、公民権法の推進に尽力し、1973年、時のニクソン政権の副大統領に指名された(前副大統領のスピロ・アグニューが収賄罪容疑で辞任したため)。しかし就任間もない1974年、ウォーターゲート事件のあおりでニクソンが辞任。替わって大統領の座に就いた。
しかし、ニクソンの弁護に終始し恩赦を与えたため、国民の人気は急落。1976年の選挙では、民主党のジミー・カーターに敗れた。
コメディアンがウォーターゲート事件を握りつぶした作品世界では、12年を経た今なおニクソンの副大統領を務めている。劇中では腰抜け呼ばわりされているが、実際、ニクソン擁護の姿勢から彼の腰巾着視されることも多く、存在感を示すことはできなかった。
<P9>
PANEL3
顎から垂れた血が、おなじみのパターンを作り出そうとしている。
PANEL6
エレベーターの男性が被っている奇妙な帽子あるいはヘルメットに注目。
<P10>
PANEL1
KT28:架空の麻薬。KTと略すこともある。KTとは"Knot Top(チョンマゲ)"の略。
エレベーターの表示に注目。1階がGround Floorの頭文字の"G"、2階が"2"となっているが、実際のアメリカ式の表示では1階は1st Floorなので"1"となる。
Ground Floorというのは、いわゆる"1階"のイギリス式の呼び方だが、イギリス式では、1階が"G"(Ground Floor)、2階が"1"(1st Floor)、3階が"2"(2nd Floor)となるため、作品世界のエレベーターの表示は米英が混ざった方式ということになる。
PANEL2
ブレイクの転落を描いた三つのコマは、つながった一枚画として描かれている。
PANEL3
ベトナム、51番目の州に:1971年にベトナム戦争に勝利したアメリカは、14年をかけてベトナムを自国に併合した。現実では、アメリカは73年にベトナムから全面撤退。合衆国史上、初の敗戦となった。その後も南北ベトナムの戦闘は続いたものの、75年に北ベトナムの勝利に終った。
なお、アメリカが他国を併合した例としては、ハワイ共和国が1898年にアメリカの準州となり、1959年に50番目の州に昇格した例がある。
黒の船、パイレーツ、X-シップ:いずれも作品用に創造されたコミックス。作品世界では、海賊物のコミックスが主流となっており、スーパーヒーロー物が大半を占める現実とは大きく異なっている。
現実においては、1950年代初頭に一時的な海賊物コミックスのブームがあったが、一つのジャンルとして定着するまでには至っていない。なお、『X-シップ』という他と趣が大きく異なるタイトルは、当時(今も)、圧倒的人気を誇っていたマーヴルコミックスのX-メンシリーズにちなんだものと思われる。
「黒の船」オリジナルアニメDVDは映画公開時に発売になる(日本での発売は不明)。
PANEL5
ガンガ・ダイナー:作品世界の人気ファーストフード・チェーン。創業者は、大規模な飢饉で難民となりアメリカに渡ったインド人であり、料理もタンドリー・チキンなど、インド料理がメインとなっている。なおガンガとは、インドを代表する大河ガンジス川を神格化した女神の名前である。
電気タクシーの初乗り料金が、わずか25セントであることに注目。当時の実際の初乗り料金が1ドル10セントだったことからも、破格の安さだといえる。現実に25セントだったのは、1950年代初頭である。
二人の刑事の左側、新聞スタンドの前に停めてあるパトカーは、ボークイン刑事がアパートの上から下を見下ろしている時からそこに停まっていたが(P7 PANEL7参照。屋根にPolis Departmentの頭文字"PD"が書いてある)、二人が乗らずに歩き続けていることから、現場を警備していた制服警官たちが乗ってきたものと思われる。ただし、11話で二人が同じようなパトカーに乗っていること、ちょうど時刻が正午すぎであることを考えると、車はやはり二人のもので、署に戻る前にガンガ・ダイナーあたりで腹ごしらえをするつもりなのかもしれない。
奇妙なサングラス(X-メンのサイクロップスを思わせる)をかけてチョンマゲを結った若者に、身なりのいい親子が奇異の目を向けている。
PANEL8
刑事たちとすれ違うコバックス。P7では、ブレイクのアパートから車道に向かって右側から左向きに歩いていたが、アパートの玄関、新聞スタンドの位置から判断すると、ここでは逆向きに歩いていることがわかる。P7からの経過時間を考えると、ブレイクの転落現場を何度も往復していたと思われる。
<P11>
PANEL1
メルトダウン:架空のキャンディの銘柄。炉心溶融とは、何とも物騒な名前である。上空の飛行船は、作品世界の最もポピュラーな長距離移動手段である。
視点は前のコマと変わっておらず、コバックスがいた位置にロールシャッハがいることから、その正体を暗示していたとも考えられる。
ピースマークを連想させる満月に注目。『ウォッチメン』に登場する月は日にちにかかわらず常に満月である。1985年10月12日以降で実際に満月だったのは、10月29日のみ。
PANEL3
バッジを拾うロールシャッハ。コバックスだった時点でも拾うことはできたはずだが、本格的な捜査はロールシャッハの仕事ということか。
<P12>
PANEL1
鑑識作業が終ったのか、P8 PANEL1では床に落ちていた女性の絵が机に立てかけられており、椅子も片付けられている。
なお、女性の絵には乳首が描かれているが、DCコミックスの出版物で乳首が描かれたのは、恐らくこれが2度目である。アメリカで一般販売されるコミックスは、基本的に全米コミックスマガジン協会の審査を受ける必要がある。審査の基準となるコミックスコードは1954年に制定されたもので、当時、流行していたホラー物、犯罪物のコミックスの描写が過激すぎるとの批判を受けて、業界自身が自発的に設けたものである。
50年代初頭、第二次大戦中に流行したスーパーヒーロー物はほぼ壊滅状態にあったが(残ったのは、スーパーマン、バットマン&ロビン、ワンダーウーマン、スーパーボーイだけだった)、業界自体は最盛期にあり、様々なジャンルのコミックスが発行されていた。その中でホラー、犯罪物は、あくまでも青年向けの位置づけにあったが、赤狩りに代表されるように何事にも過敏になっていた当時のアメリカ社会は過剰反応し、コミックス排斥運動にまで発展した。
この事態を受けコミックス業界は自主的にコミックスコードを制定し、ホラー、犯罪物コミックスの販売を中止することで、世間の批判をかわそうとしたのである(コードの制定で実害を被ったのは、ホラー、犯罪物のタイトルだけで、ヒーロー物やギャグ、西部劇など、大半の作品には大きな変化はなかったが、ホラー、犯罪物の売上はコミックス全体の四分の一を占めていたといい、それらが一掃された影響は極めて大きかった)。
コミックスコードには、犯罪描写、暴力描写に関する極めて厳しい制限があったが、性描写に関しても同様だった。セックスを連想させる描写の禁止や一切のヌード描写の禁止など、およそ性的なものを排除する内容となっていたが、そもそもキリスト教国であるアメリカは性表現には一際厳しく、コード制定前からヌードが描かれることは皆無だった。2話で登場したようなポルノコミックも存在したが、それらは非合法な出版物であり、まっとうな出版社が発売するものではなかったのである。
コミックスコードの規制はその後も続き、長く業界を支配したが、80年代に入ると状況が変化しはじめた。コードの規制対象は、新聞スタンドや薬局、駅の売店など、一般の目に触れる売り場で売られるコミックスであったが、当時、増え始めていたコミックショップはその対象外とされたため、ショップ限定発売のコミックスならば、コードの規制を受けない作品作りが可能となったのである(売れ残りが返品される通常の売店と異なり、コミックショップは買い切りである点も出版社には魅力だった)。
ダイレクトマーケットと称されるこの新たな販売形態に反応したDCコミックスは、1982年のSFコミック『キャメロット3000』で参入。以後、ダイレクトマーケット向けタイトルを増やしていき、『ウォッチメン』もその一環として発売された(コードの規制を受けている作品は、表紙に"コミックスコード承認済"のラベルが印刷されているのですぐに判別できる)ダイレクトマーケット向けの作品はコミックスコードの規制を受けないとはいえ、性描写に厳しい社会的風潮は変わっていなかったため、女性のヌードが描かれることは滅多になかった。
『ウォッチメン』にしても、DR.マンハッタンの性器は頻繁に描写されるものの、シルク・スペクターの乳首が登場するのはわずかに2回だけである。この傾向は現在もさほど変わってはおらず、日本のマンガ輸出の障害ともなっている(日本では少年誌でも、いわゆる"読者サービス"は珍しくなく、アメリカでも明確な年齢制限がある映画ではそういったサービスカットが少なくないが、ことコミックスにおいては、子供の読み物という先入観があるためか、制限が厳しい。ちなみに、性描写が売り物の"エロマンガ"の類も存在はするが、それらは完全なアダルトグッズとして扱われている。日本で言えば、"AV"の感覚か)。
ちなみにDCコミックスの、いわゆる"コミックブック"で初めて女性の乳首をはっきりと描写したのは、『ウォッチメン』の約1年前の1985年2月に発売された『ニュー・ティーン・タイタンズ』#8である。当時、DCで一番の人気を誇っていたタイタンズは、高級紙を使用した『ニュー・ティーン・タイタンズ』と普通紙を使用した『テールズ・オブ・ティーン・タイタンズ』の2誌が発売されており、『ニュー~』誌はダイレクトマーケット向け作品だった。#8の劇中には古代ギリシャの巨神族タイタンズが登場するシーンがあり、そこで海の女神テテュスが乳首を露出していたのである。
ところで、当時の『ニュー~』誌は、1年後に販売される『テールズ~』誌でリプリントされることになっており、コードの規制を受ける『テールズ~』誌で件のシーンがどうなるのか懸念されたが(該当の号は#67)、何の問題もなくそのまま掲載された(もちろん承認ラベル付で)。リプリントということで審査官が油断していたかもしれないが、コミックスコード承認済の作品で乳首が描写されたのは、後にも先にもこの一例だけであろう。
(左)コミックスコード導入前の犯罪コミック。(右)コミックスコード。コミック表紙の隅の方に付けられる。現在はコードを廃止したコミックも多い
ロールシャッハの右足の後ろに見えているドームは、作品世界のニューヨークの特徴的な建築物であるジオデシック・ドームの一つ。
『ウォッチメン』は、1986年から87年にかけて12冊のマクシシリーズとして発売され、各話の扉にはその際の各号の表紙が流用されている(各話の最後の時計が大写しになっているページが、各号の裏表紙である)。
それぞれの表紙は、本編1ページ目の1コマ目につながるようになっており、その意味では表紙が実質的な1ページ目だとも言える。このような構成は当時としては珍しいものであり、『ウォッチメン』の革新性を示す要素の一つともなっていた。
ちなみにマクシシリーズとは、連載回数を限定したミニシリーズ(TVドラマから発生した概念で、無期限連載を基本とするレギュラーシリーズとの差別化の意味で、こう呼ばれるようになった)の一種で、DCコミックスは、本作のような12話構成など、連載回数が長いミニシリーズを特にこう呼んだ。
扉に描かれている時計は、アメリカの科学誌『原子力科学者会報』の表紙に描かれた時計、通称ドームズデイ・クロック(破滅時計あるいは世界終末時計)を模したもので、核戦争勃発の可能性を時刻の形で表している(0時が核戦争勃発の時刻である)。破滅時計は、各号の表紙とコミックスの最後のページに描かれ、1号で11時48分からスタートし、最終話最終ページの0時に向かって1分刻みに進んでいく。
実際の『原子力~』誌の時計は毎年の新年号の表紙に掲載され、その時々の世界情勢により随時変更される。ちなみに、過去、もっとも針が0時に近づいたのは、米ソが水爆実験に成功した1953年で、2分前まで針が進んだ。また1981年には、米ソの軍拡競争を受けて7分前から4分前となり、1984年には、軍拡競争の激化から3分前となっていた。『ウォッチメン』が書かれた1980年代前半は、50年代以来の逼迫した状況にあったのである。
ピースマークについた血痕は、平和の象徴であるピースマークが血塗られているという、本作の根底に流れるシニカルな感覚を象徴しているが、血痕の角度は、破滅時計の分針を連想させる。このパターンは、この後、劇中で幾度も繰り返されることになる。パターンの繰り返しという手法は、ムーアが尊敬する作家ウィリアム・S・バロウズが、唯一手掛けたコミックス『アンスピーカブル・Mr.ハート』で見せた手法であるといい、ムーアのバロウズへの傾倒ぶりが伺える。
<P7>
PANEL4
トルーマン:ハリー・S・トルーマン(1884~1972)。第33代合衆国大統領。民主党所属。上院議員時代、軍事費の不正使用を追及して名声を獲得した後、1944年の大統領選挙で時のフランクリン・ルーズベルト大統領に請われて副大統領の座に就いた(ちなみにルーズベルトは4選目)。
明くる45年4月、フランクリン・ルーズベルト大統領の死去に伴い、大統領に昇格。広島、長崎への原爆投下を決行し、第二次世界大戦を終結させた。原爆投下決定の裏には、米軍の戦傷者を減らし、戦争の早期終結を図るという名目の裏に、戦後の対ソビエト戦略の一環という目的があったとされ、事実、戦後は共産主義封じ込め政策トルーマン・ドクトリンを軸に冷戦外交を展開した。また、戦争で疲弊した欧州に対してはマーシャルプランを持って復興を援助。世界のリーダーとしての地位を確立した。国内においては、陸海空軍を統合する統合参謀本部、総合的情報収集を目的とする中央情報局(CIA)、国家安全保障担当閣僚を集めた国家安全保障会議の設立と、大統領権限の拡大に邁進し、行政の中央集権化を進めた。
1948年に再選を果たしたトルーマンは、1950年に勃発した朝鮮戦争に介入するも、中国の参画により戦争は長期化。人気の低下を悟った彼は、1953年の任期満了をもって、政治の表舞台から退いた。
PANEL5
画面左側のトラックは、ピラミッド宅配社のもの。P450のムーアの脚本によれば、トラックは画面上から下に向かうように指示されているが、それでは左側通行になってしまい、右側通行のアメリカの交通法規とは逆になってしまう。
実際の作品では、右側通行に修正されているが、日本と並ぶ数少ない左側通行採用国であるイギリス在住のムーアならではのミスだろう。
PANEL7
路上の車が、空気力学を意識したような曲線形をしているのに注目。現在の目から見ると、それほど奇異には感じられないが、本作の発表当時はまだまだ、車と言えば四角のイメージが主流だった。
これら、現実との"ちょっとした"違いは、作品世界が"もう一つ"の1985年であることを読者に直感させるための仕掛けであり、以後、劇中のあちこちに様々な形で顔を出してくる。
<P8>
PANEL1
ファイン刑事が吸っている煙草は、おなじみの紙巻煙草であるが、作品世界においては、煙草はガラス・パイプに入れて炙るスタイルが一般的であり(恐らくはDR.マンハッタンの発明によるもので、健康への影響も少ないものと思われる)、旧来の紙巻煙草は少数派になっているものと思われる。
手前の制服警官の耳に注目。イヤホン型の通信機か。
作品世界の革靴は、靴紐ではなく、くるぶしのゴム(?)で締めるのが一般的なようだ。
PANEL6
そのいびつな巻き方から、ファイン刑事の吸っている煙草は手巻きだと推測される。
PANEL8
副大統領のフォード:ジェラルド・フォード(1913~2006)。第38代合衆国大統領。共和党所属。ドナルド・ラムズフェルドらとともに下院議員として頭角を現した彼は、公民権法の推進に尽力し、1973年、時のニクソン政権の副大統領に指名された(前副大統領のスピロ・アグニューが収賄罪容疑で辞任したため)。しかし就任間もない1974年、ウォーターゲート事件のあおりでニクソンが辞任。替わって大統領の座に就いた。
しかし、ニクソンの弁護に終始し恩赦を与えたため、国民の人気は急落。1976年の選挙では、民主党のジミー・カーターに敗れた。
コメディアンがウォーターゲート事件を握りつぶした作品世界では、12年を経た今なおニクソンの副大統領を務めている。劇中では腰抜け呼ばわりされているが、実際、ニクソン擁護の姿勢から彼の腰巾着視されることも多く、存在感を示すことはできなかった。
<P9>
PANEL3
顎から垂れた血が、おなじみのパターンを作り出そうとしている。
PANEL6
エレベーターの男性が被っている奇妙な帽子あるいはヘルメットに注目。
<P10>
PANEL1
KT28:架空の麻薬。KTと略すこともある。KTとは"Knot Top(チョンマゲ)"の略。
エレベーターの表示に注目。1階がGround Floorの頭文字の"G"、2階が"2"となっているが、実際のアメリカ式の表示では1階は1st Floorなので"1"となる。
Ground Floorというのは、いわゆる"1階"のイギリス式の呼び方だが、イギリス式では、1階が"G"(Ground Floor)、2階が"1"(1st Floor)、3階が"2"(2nd Floor)となるため、作品世界のエレベーターの表示は米英が混ざった方式ということになる。
PANEL2
ブレイクの転落を描いた三つのコマは、つながった一枚画として描かれている。
PANEL3
ベトナム、51番目の州に:1971年にベトナム戦争に勝利したアメリカは、14年をかけてベトナムを自国に併合した。現実では、アメリカは73年にベトナムから全面撤退。合衆国史上、初の敗戦となった。その後も南北ベトナムの戦闘は続いたものの、75年に北ベトナムの勝利に終った。
なお、アメリカが他国を併合した例としては、ハワイ共和国が1898年にアメリカの準州となり、1959年に50番目の州に昇格した例がある。
黒の船、パイレーツ、X-シップ:いずれも作品用に創造されたコミックス。作品世界では、海賊物のコミックスが主流となっており、スーパーヒーロー物が大半を占める現実とは大きく異なっている。
現実においては、1950年代初頭に一時的な海賊物コミックスのブームがあったが、一つのジャンルとして定着するまでには至っていない。なお、『X-シップ』という他と趣が大きく異なるタイトルは、当時(今も)、圧倒的人気を誇っていたマーヴルコミックスのX-メンシリーズにちなんだものと思われる。
PANEL5
ガンガ・ダイナー:作品世界の人気ファーストフード・チェーン。創業者は、大規模な飢饉で難民となりアメリカに渡ったインド人であり、料理もタンドリー・チキンなど、インド料理がメインとなっている。なおガンガとは、インドを代表する大河ガンジス川を神格化した女神の名前である。
電気タクシーの初乗り料金が、わずか25セントであることに注目。当時の実際の初乗り料金が1ドル10セントだったことからも、破格の安さだといえる。現実に25セントだったのは、1950年代初頭である。
二人の刑事の左側、新聞スタンドの前に停めてあるパトカーは、ボークイン刑事がアパートの上から下を見下ろしている時からそこに停まっていたが(P7 PANEL7参照。屋根にPolis Departmentの頭文字"PD"が書いてある)、二人が乗らずに歩き続けていることから、現場を警備していた制服警官たちが乗ってきたものと思われる。ただし、11話で二人が同じようなパトカーに乗っていること、ちょうど時刻が正午すぎであることを考えると、車はやはり二人のもので、署に戻る前にガンガ・ダイナーあたりで腹ごしらえをするつもりなのかもしれない。
奇妙なサングラス(X-メンのサイクロップスを思わせる)をかけてチョンマゲを結った若者に、身なりのいい親子が奇異の目を向けている。
PANEL8
刑事たちとすれ違うコバックス。P7では、ブレイクのアパートから車道に向かって右側から左向きに歩いていたが、アパートの玄関、新聞スタンドの位置から判断すると、ここでは逆向きに歩いていることがわかる。P7からの経過時間を考えると、ブレイクの転落現場を何度も往復していたと思われる。
<P11>
PANEL1
メルトダウン:架空のキャンディの銘柄。炉心溶融とは、何とも物騒な名前である。上空の飛行船は、作品世界の最もポピュラーな長距離移動手段である。
視点は前のコマと変わっておらず、コバックスがいた位置にロールシャッハがいることから、その正体を暗示していたとも考えられる。
ピースマークを連想させる満月に注目。『ウォッチメン』に登場する月は日にちにかかわらず常に満月である。1985年10月12日以降で実際に満月だったのは、10月29日のみ。
PANEL3
バッジを拾うロールシャッハ。コバックスだった時点でも拾うことはできたはずだが、本格的な捜査はロールシャッハの仕事ということか。
<P12>
PANEL1
鑑識作業が終ったのか、P8 PANEL1では床に落ちていた女性の絵が机に立てかけられており、椅子も片付けられている。
なお、女性の絵には乳首が描かれているが、DCコミックスの出版物で乳首が描かれたのは、恐らくこれが2度目である。アメリカで一般販売されるコミックスは、基本的に全米コミックスマガジン協会の審査を受ける必要がある。審査の基準となるコミックスコードは1954年に制定されたもので、当時、流行していたホラー物、犯罪物のコミックスの描写が過激すぎるとの批判を受けて、業界自身が自発的に設けたものである。
50年代初頭、第二次大戦中に流行したスーパーヒーロー物はほぼ壊滅状態にあったが(残ったのは、スーパーマン、バットマン&ロビン、ワンダーウーマン、スーパーボーイだけだった)、業界自体は最盛期にあり、様々なジャンルのコミックスが発行されていた。その中でホラー、犯罪物は、あくまでも青年向けの位置づけにあったが、赤狩りに代表されるように何事にも過敏になっていた当時のアメリカ社会は過剰反応し、コミックス排斥運動にまで発展した。
この事態を受けコミックス業界は自主的にコミックスコードを制定し、ホラー、犯罪物コミックスの販売を中止することで、世間の批判をかわそうとしたのである(コードの制定で実害を被ったのは、ホラー、犯罪物のタイトルだけで、ヒーロー物やギャグ、西部劇など、大半の作品には大きな変化はなかったが、ホラー、犯罪物の売上はコミックス全体の四分の一を占めていたといい、それらが一掃された影響は極めて大きかった)。
コミックスコードには、犯罪描写、暴力描写に関する極めて厳しい制限があったが、性描写に関しても同様だった。セックスを連想させる描写の禁止や一切のヌード描写の禁止など、およそ性的なものを排除する内容となっていたが、そもそもキリスト教国であるアメリカは性表現には一際厳しく、コード制定前からヌードが描かれることは皆無だった。2話で登場したようなポルノコミックも存在したが、それらは非合法な出版物であり、まっとうな出版社が発売するものではなかったのである。
コミックスコードの規制はその後も続き、長く業界を支配したが、80年代に入ると状況が変化しはじめた。コードの規制対象は、新聞スタンドや薬局、駅の売店など、一般の目に触れる売り場で売られるコミックスであったが、当時、増え始めていたコミックショップはその対象外とされたため、ショップ限定発売のコミックスならば、コードの規制を受けない作品作りが可能となったのである(売れ残りが返品される通常の売店と異なり、コミックショップは買い切りである点も出版社には魅力だった)。
ダイレクトマーケットと称されるこの新たな販売形態に反応したDCコミックスは、1982年のSFコミック『キャメロット3000』で参入。以後、ダイレクトマーケット向けタイトルを増やしていき、『ウォッチメン』もその一環として発売された(コードの規制を受けている作品は、表紙に"コミックスコード承認済"のラベルが印刷されているのですぐに判別できる)ダイレクトマーケット向けの作品はコミックスコードの規制を受けないとはいえ、性描写に厳しい社会的風潮は変わっていなかったため、女性のヌードが描かれることは滅多になかった。
『ウォッチメン』にしても、DR.マンハッタンの性器は頻繁に描写されるものの、シルク・スペクターの乳首が登場するのはわずかに2回だけである。この傾向は現在もさほど変わってはおらず、日本のマンガ輸出の障害ともなっている(日本では少年誌でも、いわゆる"読者サービス"は珍しくなく、アメリカでも明確な年齢制限がある映画ではそういったサービスカットが少なくないが、ことコミックスにおいては、子供の読み物という先入観があるためか、制限が厳しい。ちなみに、性描写が売り物の"エロマンガ"の類も存在はするが、それらは完全なアダルトグッズとして扱われている。日本で言えば、"AV"の感覚か)。
ちなみにDCコミックスの、いわゆる"コミックブック"で初めて女性の乳首をはっきりと描写したのは、『ウォッチメン』の約1年前の1985年2月に発売された『ニュー・ティーン・タイタンズ』#8である。当時、DCで一番の人気を誇っていたタイタンズは、高級紙を使用した『ニュー・ティーン・タイタンズ』と普通紙を使用した『テールズ・オブ・ティーン・タイタンズ』の2誌が発売されており、『ニュー~』誌はダイレクトマーケット向け作品だった。#8の劇中には古代ギリシャの巨神族タイタンズが登場するシーンがあり、そこで海の女神テテュスが乳首を露出していたのである。
ところで、当時の『ニュー~』誌は、1年後に販売される『テールズ~』誌でリプリントされることになっており、コードの規制を受ける『テールズ~』誌で件のシーンがどうなるのか懸念されたが(該当の号は#67)、何の問題もなくそのまま掲載された(もちろん承認ラベル付で)。リプリントということで審査官が油断していたかもしれないが、コミックスコード承認済の作品で乳首が描写されたのは、後にも先にもこの一例だけであろう。
ロールシャッハの右足の後ろに見えているドームは、作品世界のニューヨークの特徴的な建築物であるジオデシック・ドームの一つ。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.04.2009
【序文】「ウォッチメン」原作コミックについて
アメリカンコミックスの頂点として誰もが認める一作、それが『ウォッチメン』である。『ウォッチメン』が発売されたのは1986年、発売元のDCコミックスにとって、後に奇跡の1年とも称される年だった。
バットマンの最期を描き、その後のコミックスの流れを決定付けた『ダークナイト・リターンズ』スーパーマンの再生を果たした『マン・オブ・スティール』バットマンのオリジンを再定義した『イヤーワン』そして『ウォッチメン』が次々と発表された、コミックスの歴史に残る1年だったのである。
とはいえ、その1年は突然変異的に訪れたのではない。その種は5年近くの時をかけて成長を続け、花開いたのだ。
ムーアらがアメリカンコミックスの世界に変革をもたらしてから四半世紀以上が経過した。コミックスの地位は確実に向上し、今やTVや映画の脚本とコミックスを掛け持ちするライターも珍しくない。変革の中心人物だったフランク・ミラーは、映画監督としても活躍しており、ムーアの諸作は次々とハリウッドで映画化されている。現在のコミック業界の姿が彼らの望んだものかどうかはわからないが、あの日の彼らの情熱がアメリカのコミックスの歴史を変えたこと、そして『ウォッチメン』こそが変革の象徴であることは紛れもない事実なのである。
バットマンの最期を描き、その後のコミックスの流れを決定付けた『ダークナイト・リターンズ』スーパーマンの再生を果たした『マン・オブ・スティール』バットマンのオリジンを再定義した『イヤーワン』そして『ウォッチメン』が次々と発表された、コミックスの歴史に残る1年だったのである。
とはいえ、その1年は突然変異的に訪れたのではない。その種は5年近くの時をかけて成長を続け、花開いたのだ。
当時、アメリカのコミック業界は、かつてない熱気に包まれていた。半世紀の間、子供の読み物としてメディアの最下層にあったコミックブックが、大人の鑑賞に堪えうるメディアとしての地位を確立しつつあったのだ。 そのきっかけを辿れば、1977年の『スター・ウォーズ』公開にまで遡れる。突如、SFがブームとなり、その一分野としてコミックスにも注目が集まるようになったのだ。 翌78年にはスーパーマンが超大作映画になり、SFグッズやコミックスのバックナンバーを扱うコミックショップが各地に誕生した。そして、これらコミックショップの誕生がコミックスのあり方を大きく変えて行くことになる。 コミックショップが姿を見せ始めた70年代末、大人のファンの目を引いたのがマーベルコミックスの『X-メン』だった。クリス・クレアモントとジョン・バーンの手による『X-メン』は、ストーリー、アート、キャラクター、そのいずれもが従来のコミックスの枠を脱した意欲作だった。 『X-メン』の成功は、若き作家たちを発奮させ、彼らは競い合って情熱を作品にぶつけた。『デアデビル』のフランク・ミラー、『ニュー・ティーン・タイタンズ』のマーヴ・ウルフマン&ジョージ・ペレス、『ムーンナイト』のビル・シンケビッチ、『アメリカン・フラッグ!』のハワード・チェイキン、やがて彼ら若手作家陣は80年代のコミックス業界を牽引する存在となっていく。 その一方で、当初、各出版社がコミックショップに抱いていた認識は、返本がない有難い売り場、という程度のものでしかなかったが(従来のコミックスの売り場である新聞スタンドや駅の売店では、売れ残り分は返品されたが、それらと業態の異なるコミックショップは、返本のない買い切り制だった)、やがて、その可能性が注目されるようになっていく。そこに大人のマニアが集まるならば、彼らに向けた商品を開発すれば新たな市場が開けるのではないか、出版社もまた、そこに新たな可能性を見出したのである。 各社の反応は早かった。まず、マーベルコミックスが1981年に『ダズラー』で参入。DCも翌82年に『キャメロット3000』で、ダイレクトマーケットと呼ばれるようになったこの新市場に参入した。 これら新規マーケットの誕生は出版社だけでなく、作家陣にとっても歓迎すべきものだった。なぜならば、ダイレクトマーケットで販売されるコミックスには、コミックスの内容を制限するコミックスコードが適用されなかったからである。暴力や性描写など、子供に望ましくないと思われる内容を厳しく規制するコミックスコードは、長年、アメリカのコミックスの足枷となってきた。いわゆるスーパーヒーロー物ならばともかく、大人に向けた作品を作るにはコードは障害でしかなかったのである。過去にもコードの規制を受けない、大人向けのコミックスはあったが、売り場を制限され、拡がりにも限界があった。それがダイレクトマーケットの登場で状況が一変し、また読者もそんな新感覚の作品を求めるという、送り手の側にも、受け手の側にも理想的な状況が生まれたのである。 こうしてダイレクトマーケット向けの作品が増える一方、通常のコミックスの内容もまた進化していった。向こうが面白そうなことをやってるのに、こっちが黙っているわけにはいかない。そんなライバル意識がプラスに働いたのである。80年代に入ると、子供の頃からコミックスを読んで育ったマニア層が送り手の側に回る時代になっており、読者のマニアもまた、その流れを大いに歓迎した。 日本で言えば『宇宙戦艦ヤマト』の登場でアニメマニアが生まれ、そのマニアが今度は作り手側に回って『超時空要塞マクロス』を作る、それと似た状況がアメリカのコミックス業界にも起きていたのである。 その流れの中で登場したのが『ウォッチメン』の原作者であるアラン・ムーアだった。 同じく変革期にあったイギリスのコミック界で頭角を現したムーアは、1983年にDCの辣腕編集者レン・ウェインによってアメリカに招かれた。当時、マーベルの『X-メン』に並ぶ人気を誇った『ニュー・ティーン・タイタンズ』の編集長だった彼は、自らが原作を手掛けたホラーコミック『サーガ・オブ・スワンプシング』のライターにムーアを抜擢したのである。 ムーアは、『マーベルマン』『Ⅴ フォー・ヴェンデッタ』などで、イギリスのコミック界を席巻していたが、アメリカでは無名の存在であり、まして外国人のライターの起用は異例の事態だった(同時期にイギリスのアーティストたちもDCで活動を始めているが、ライターはムーア一人だった)。 ムーアの起用は、人気の下がっていた『スワンプシング』だからこそ可能だったとも言えるが、ムーアの参加で同誌は瞬く間に人気を上げ、俄然注目の的となった彼は、様々なタイトルにゲストライターとして招かれるようになる(とはいえ、あくまでもまだ"驚異の新人ライター"という位置づけであり、マーベルの『デアデビル』で人気を爆発させたフランク・ミラーらトップクリエイターの域には達していなかった。一方でDCは、ミラーにはかなり気を使っていたようで、83年に発表されたミラーのSF時代劇『ローニン』、そして86年の『ダークナイト・リターンズ』ともに、従来の雑誌形態とは異なる新規の豪華フォーマットを用意して迎えた程である。ムーアが押しも押されぬトップに立ったのは、『ウォッチメン』発表後のことだった)。 こうして業界が日増しに熱気を帯びる中、DCは記念すべき創立50周年の年、1985年を迎える。 1985年、DCは1年がかりで、DCのほぼ全てのタイトルとクロスオーバーする超大作『クライシス・オン・インフィニット・アーシズ』を発売した。反宇宙からの脅威アンチ・モニターに、DCの全ヒーロー、全悪役が立ち向かうという壮大なこの作品は、DCユニバースをあらゆる読者にとって魅力的なものに再生するという大命を帯びており、その内容だけでなく、DCコミックスという出版社自体が大きく生まれ変わろうとしていることを、ファンに強くアピールした。 そして『クライシス』終了直後の86年3月に発売された『ダークナイト・リターンズ』創刊号で、DCの変革は誰の目にも明らかになった。それまで、DCは幾多のダイレクトマーケット向け作品を発表してきたが、会社の看板たるスーパーヒーローをテーマにしたものは皆無だった。せっかく自由に創作できるならヒーロー物以外でという気持ちが作家陣にあったのかもしれないが、何より出版社として彼ら看板ヒーローはアンタッチャブルな存在だったのである。だが『ダークナイト・リターンズ』におけるバットマンは、かつてない程に冷酷非情で戦いに飢えたダークヒーローとして描かれていた。誕生から40年近くも経った、言うなれば親の世代のヒーローであるバットマンに、まだこんな魅力が隠されていたのか。読者は驚きながらも新たなバットマン像を熱狂的に支持した。そして『ダークナイト・リターンズ』と入れ替わるようにして、同年6月に登場したのが、スーパーヒーローそのものの概念を根底から覆す『ウォッチメン』だったのである。 従来のDCユニバースとは異なる独自の世界を舞台にした『ウォッチメン』は、バットマンという大物ヒーローが主役の『ダークナイト・リターンズ』に比べると、当初こそ注目度は決して高くはなかったが、巻が進むにつれ評判が評判を呼び、シリーズ終了を待たずして、テーブルトークRPGの企画が走り始める程だった。歴史が作られる瞬間に立ち会っている、読者の誰もがそう感じていたのだ。 87年6月にシリーズが終了すると、『ウォッチメン』はすぐにペーパーバックにまとめられ、『ダークナイト・リターンズ』『ローニン』『スワンプシング』とともに一般書店の棚にも並んだ。当時、アメリカの書店にコミックスが置かれることは極めて稀であり、久々にコミックスを目にした一般読者はその変貌振りに驚きを隠せなかった。こうして一般層をも巻き込んだコミックスの"ルネッサンス"は、89年の映画『バットマン』公開で一つの頂点を迎えることになる。 | X-MEN The New Teen Titans Moon Knight American Flagg! Daredevil Ronin The Dark Knight Returns Batman: Year One Superman: Man of Steel Crisis on Infinite Earths |
ムーアらがアメリカンコミックスの世界に変革をもたらしてから四半世紀以上が経過した。コミックスの地位は確実に向上し、今やTVや映画の脚本とコミックスを掛け持ちするライターも珍しくない。変革の中心人物だったフランク・ミラーは、映画監督としても活躍しており、ムーアの諸作は次々とハリウッドで映画化されている。現在のコミック業界の姿が彼らの望んだものかどうかはわからないが、あの日の彼らの情熱がアメリカのコミックスの歴史を変えたこと、そして『ウォッチメン』こそが変革の象徴であることは紛れもない事実なのである。
TEXT BY 石川裕人
ラベル:
原作コミック解説
3.03.2009
映画「ウォッチメン」 3月28日公開
ウォッチメン
WATCHMEN
2009年3月28日(土)丸の内ルーブル他全国ロードショー
■<映画『ウォッチメン』とは>
―『300<スリーハンドレッド>』で驚愕の映像を生み出したザック・スナイダーが、不可能と言われ続けてきたグラフィックノベル『ウォッチメン』の世界の映像化に挑む―
ポール・グリーングラス(『ボーン・アルティメイタム』)や、テリー・ギリアム(『12モンキーズ』)など、数々の有名クリエイターが映画化に着手したものの、衝撃的で複雑なエンディングと、壮大な世界観を構想しきれず、映画化を断念していた。
そして、『300<スリーハンドレッド>』で驚異の映像を作り上げ、世界中で大ヒットを記録した注目クリエイター、ザック・スナイダーがついに待望の映画化に踏み切った。20数年のときを経てついに傑作『ウォッチメン』が映像化されることとなった。ザック・スナイダー独特のスローモーション効果やCG合成による映像を駆使し、『ウォンテッド』、『ジャンパー』に続くスタイリッシュな音楽と映像で、観るものを驚愕のビジュアル・ワールドへと誘う。2009年最もクールな映像が全編にわたって炸裂する。
■<実在した過去の事件>とイマジネーションが融合するリアル・ミステリー
―我々の知っている歴史はすべて事実なのだろうか?もし真実と思っているものが何者かの手で歪められたものであったとしたら…―
『ウォッチメン』の時代背景は1980年代、ニクソン大統領が任期を引き延ばし、いまだに政権を握っている時代である。そこから40年代にも遡り、半世紀に渡る出来事を描いている。世界を揺るがした事件に関わりをもってきたとされる"ウォッチメン"が登場し、我々の世界で起こった実在の事件との関わり合いが描かれていく。ジョン・F・ケネディ暗殺事件やベトナム戦争のほか、アポロ11号による月面着陸、キューバ革命期のカストロ、ニューヨークで活躍するアンディ・ウォーホールなど実在した事件や人物の描写が数多く登場するのだ。
はたして"ウォッチメン"たちは歴史上の有名な事件にどう関わっていたのか。フィクションではありながら、史実を絡ませたミステリアスな展開に、"ウォッチメン"と呼ばれる者たちが次々と暗殺されていくというショッキングなストーリー性が加わり、これまでにはない新たな世界観<リアル・ミステリー>を作り出した。
ヒューゴー賞など数多くの賞を受賞してきた、グラフィックノベルの伝説的な傑作。その緻密に描かれた衝撃のストーリーがいま、驚愕なビジュアル・ワールドを展開し、明からかにされる。歴史の隠された真実を暴く、衝撃の超大作、いよいよ2009年3月28日、日本公開!
■STORY
ジョン・F・ケネディ暗殺事件、ベトナム戦争、キューバ危機・・・。
かつて世界で起きた数々の事件の陰で、<監視者>たちがいた。彼らは“ウォッチメン”と呼ばれ、人々を見守り続けてきたはずだった─。そして1977年には、政府によりその活動を禁止され、ある者は姿を消し、ある者は密かに活動を続けていた。
1985年、アメリカ合衆国はいまだニクソン大統領が政権を握り権力を欲しいままにしている。ソ連の間で一触即発の緊張関係が続き、漠然とした不安感が社会を包んでいた。
ニューヨーク、10月のある夜。高層マンションの一室から、ガラス窓が豪快に割れる音とともに、一人の男が突き落とされ殺された。死体のそばには、血がついたスマイルバッジが落ちていた。平和のシンボルに不吉な血痕。世界の終末が近づいているのかもしれない。殺された大男の名はエドワード・ブレイク。かつて“ウォッチメン”と呼ばれていた者の一人であり、スマイルバッジは彼が胸に着けていたトレードマークだった。
しばらくして事件現場に現れたのは、ロールシャツハと呼ばれる薄汚いトレンチコートにフェドーラ帽をかぶった謎の男。顔が白と黒の模様が変化するこの男が、血のスマイルバッジを手に取り見つめている。この“顔のない男”は独自で捜査をはじめ、ダン・ドライバーグ、エイドリアン・ヴェイドなど、かつて“ウォッチメン”とよばれた者たちの周辺を嗅ぎまわり始めた。そして、事件の捜査を進めれば進めるほど、なぜか次々とかつてのヒーローが無残にも消されていく・・・。いったい何が起きているのだろうか。
なぜ、ウォッチメンが狙われるのか?誰が何を仕組んでいるか?
何の目的で、かつてのヒーローを殺し続けるのか・・・。
■予告編
■スタッフ
■キャスト
WATCHMEN
2009年3月28日(土)丸の内ルーブル他全国ロードショー
■<映画『ウォッチメン』とは>
―『300<スリーハンドレッド>』で驚愕の映像を生み出したザック・スナイダーが、不可能と言われ続けてきたグラフィックノベル『ウォッチメン』の世界の映像化に挑む―
ポール・グリーングラス(『ボーン・アルティメイタム』)や、テリー・ギリアム(『12モンキーズ』)など、数々の有名クリエイターが映画化に着手したものの、衝撃的で複雑なエンディングと、壮大な世界観を構想しきれず、映画化を断念していた。
そして、『300<スリーハンドレッド>』で驚異の映像を作り上げ、世界中で大ヒットを記録した注目クリエイター、ザック・スナイダーがついに待望の映画化に踏み切った。20数年のときを経てついに傑作『ウォッチメン』が映像化されることとなった。ザック・スナイダー独特のスローモーション効果やCG合成による映像を駆使し、『ウォンテッド』、『ジャンパー』に続くスタイリッシュな音楽と映像で、観るものを驚愕のビジュアル・ワールドへと誘う。2009年最もクールな映像が全編にわたって炸裂する。
■<実在した過去の事件>とイマジネーションが融合するリアル・ミステリー
―我々の知っている歴史はすべて事実なのだろうか?もし真実と思っているものが何者かの手で歪められたものであったとしたら…―
『ウォッチメン』の時代背景は1980年代、ニクソン大統領が任期を引き延ばし、いまだに政権を握っている時代である。そこから40年代にも遡り、半世紀に渡る出来事を描いている。世界を揺るがした事件に関わりをもってきたとされる"ウォッチメン"が登場し、我々の世界で起こった実在の事件との関わり合いが描かれていく。ジョン・F・ケネディ暗殺事件やベトナム戦争のほか、アポロ11号による月面着陸、キューバ革命期のカストロ、ニューヨークで活躍するアンディ・ウォーホールなど実在した事件や人物の描写が数多く登場するのだ。
はたして"ウォッチメン"たちは歴史上の有名な事件にどう関わっていたのか。フィクションではありながら、史実を絡ませたミステリアスな展開に、"ウォッチメン"と呼ばれる者たちが次々と暗殺されていくというショッキングなストーリー性が加わり、これまでにはない新たな世界観<リアル・ミステリー>を作り出した。
ヒューゴー賞など数多くの賞を受賞してきた、グラフィックノベルの伝説的な傑作。その緻密に描かれた衝撃のストーリーがいま、驚愕なビジュアル・ワールドを展開し、明からかにされる。歴史の隠された真実を暴く、衝撃の超大作、いよいよ2009年3月28日、日本公開!
■STORY
ジョン・F・ケネディ暗殺事件、ベトナム戦争、キューバ危機・・・。
かつて世界で起きた数々の事件の陰で、<監視者>たちがいた。彼らは“ウォッチメン”と呼ばれ、人々を見守り続けてきたはずだった─。そして1977年には、政府によりその活動を禁止され、ある者は姿を消し、ある者は密かに活動を続けていた。
1985年、アメリカ合衆国はいまだニクソン大統領が政権を握り権力を欲しいままにしている。ソ連の間で一触即発の緊張関係が続き、漠然とした不安感が社会を包んでいた。
ニューヨーク、10月のある夜。高層マンションの一室から、ガラス窓が豪快に割れる音とともに、一人の男が突き落とされ殺された。死体のそばには、血がついたスマイルバッジが落ちていた。平和のシンボルに不吉な血痕。世界の終末が近づいているのかもしれない。殺された大男の名はエドワード・ブレイク。かつて“ウォッチメン”と呼ばれていた者の一人であり、スマイルバッジは彼が胸に着けていたトレードマークだった。
しばらくして事件現場に現れたのは、ロールシャツハと呼ばれる薄汚いトレンチコートにフェドーラ帽をかぶった謎の男。顔が白と黒の模様が変化するこの男が、血のスマイルバッジを手に取り見つめている。この“顔のない男”は独自で捜査をはじめ、ダン・ドライバーグ、エイドリアン・ヴェイドなど、かつて“ウォッチメン”とよばれた者たちの周辺を嗅ぎまわり始めた。そして、事件の捜査を進めれば進めるほど、なぜか次々とかつてのヒーローが無残にも消されていく・・・。いったい何が起きているのだろうか。
なぜ、ウォッチメンが狙われるのか?誰が何を仕組んでいるか?
何の目的で、かつてのヒーローを殺し続けるのか・・・。
■予告編
■スタッフ
・監督 | … | ザック・スナイダー |
・脚本 | … | デビッド・ハイター、アレックス・ティーズ |
・原作 | … | アラン・ムーア、デイヴ・ギボンズ |
・音楽 | … | タイラー・ベイツ |
■キャスト
ビリー・クラダップ | … | ジョン・オスターマン/ドクター・マンハッタン |
マリン・アッカーマン | … | ローリー・ジュスペクツィク/シルクスペクターII |
カーラ・グジーノ | … | サリー・ジュピター/シルクスペクター |
パトリック・ウィルソン | … | ダン・ドライバーグ/ナイトオウルII |
ジェフリー・ジーン・モーガン | … | エドワード・ブレイク/コメディアン |
ジャッキー・アール・ハーディー | … | ウォルター・コヴァック/ロールシャッハ |
マシュー・グッド | … | エイドリアン・ヴェイト/オジマンディアス |
ラベル:
映画「ウォッチメン」
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